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理想の暮らし。憧れと、

ひとつの憧れ。宇宙船の中のような閉鎖的な小さな部屋に籠って、今であればネズミとポツンと暮らすこと。物は少なくて、あまり大きくない家具が数点、そして可愛くて素敵なものをちりばめて、ポツンと暮らす。余計な感情を生まず、あくまでも淡々と。つるりとした表面と原色があって、それ以外の主張はペットのわがままだけ。そんな感じの、宇宙空間にポツンと置かれたような暮らし。
 10代の後半に、母に勧められて『2001年宇宙の旅』という映画を見た。永遠と続く砂漠の映像と、やっと現れた猿の荒れ狂いを見て、やっとやっと物語が動き出す。けれど物語がどれだけ進もうが私の頭ではさっぱりで、映画が幕を閉じた時には怒涛にぽかんとしていた。私から生まれた第一声は「わからない」。見終わって思ったのは、もうに二度とこの映画を観ないだろうなということ。けれどあの映像体験はいつまでも私の頭の中に残り、ずっと住み着いている。映画を観てから三年くらいが経ってから小説を読んだ。冒頭からラストの不明瞭を全て語っていた。私はやっと「なるほど」と思う。映画はまだ一度しか観ていないけれど、いつの間にか取りつかれている。
 私は海と、それから宇宙が苦手。真っ暗で漂って、その先は未知。未知は恐怖なのだと思う。それなのに憧れる。恐怖の中にポツンと佇むのに憧れる。なんというか、言葉で言い表すのなら、「巨大空間に放り投げられた閉鎖空間で暮らしたい」そんな気持ち。
 アメリカで火星環境で暮らす人を募集していた。詳細を聞くとおののくけれど、面白いな思う。ここじゃないどこかに、私は憧れるのだと思う。人ごみの街で過ごすことを余儀なくされているから、私は憧れる。宇宙船の中のような部屋に籠って暮らしたい。いつか、いつか。