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秋味 あの歌い手とおやじたちはわたしたち

陽が落ち薄暗くなった境内、
祭り提灯がぼんやりと照る中、
特設ステージで歌う彼女は見たことも聞いたこともないひとだった。
電柱に無造作に吊られている音響は拡声器の延長みたいな簡素を通り越したもので歌声は分散され、声が割れてしまう。
そんなステージに現れた彼女は、よく言えば清純派なワンピース、わるく言えばお金のかかっていなさすぎる衣装に身を包んで次次に昭和歌謡を披露する。
近所のローソンで買ってきたビールを呑み呑みの大人たちや
祭り屋台のこてこてソース味やべったべたシロップかき氷を食べ食べの子供たちは座ったり立ったり聴いたり聴かなかったりする。
笑ってしまった。笑ってはいけない。笑うしかない。気付けば泣いていた。
 
今年は夏祭りだの夏イベントだのにちょくちょく足を運んだ。
音も匂いも空気も澄んでいるとか清いとかとは真逆、
熱くてうるさくて臭くて俗で猥雑。
ハレの日の熱と気は人や場を動や精みたいな空気にする。
つまり〝はだか〟にする。
そんな熱や気が好きかと言われるとわからないけれど嫌いではない。
ちょっとその空気の中に居るだけで帰宅後どっとくるけれど足が向く。
元々、ケとハレの芸能や芸事や土着的なものへの興味はある。
でもそんな〝アタマ〟以上に場と空気を体で体ごと味わいたくなる。
 
この日も偶然だった。
出先で偶然秋祭りの告知ポスターを目にし、訪れることを決めた。
知らない街の知らない神社の秋祭り。
朝や昼には御神輿に里神楽、夜は境内で奉納演芸があるらしい。
用を終えた夜に足を運ぶと、
神社の能舞台とまではいかないけれどちいさな舞台では安っぽくってかわいいバルーンアートのステージ中。奉納演芸ってそういうことか。
全力笑顔の愛嬌たっぷり、でも時折どことなく投げやりな言葉遣いのおねえさんが次々にマジックを披露しバルーンアートを作り、子供たちが群がる。
「はい、夢の国のねずみくんですよー、大人の都合で名前は言いませんけどねー」
花束を持ったねずみくんバルーンは大人気、
もらった子は全力どや顔の後飽きてすぐにあっちへ行く。
バルーンの後は寄席演芸のゲストが来るらしい。
客席に座って観ることにした。勿論、缶ビールも買ってきたしね秋味。
そこに出てきたのはなぜか噺家でも紙切りでもなく、
次の出番のはずだった歌い手だった。
聞いたことも見たこともないひとが次々に歌う聞いたことのある歌。
1曲目が終わり、さあ、自己紹介のMCタイムだ。
作り笑顔なのに不機嫌さを隠さずに笑いながら言った。
「貼り出してる名前が間違ってるんですー! 漢字は●●ですからねー!」
「今日わたしを初めて見たよー! ってひとー?!」
数名がぱらぱらと手をちゃんと挙げる。挙げないし挙げる気もないだろうひとたちも居る。
彼女はその中で最前列の何人かを見て舞台上から声をかける、いや、ツッコむ。
「いや、違うでしょ! あなたはいつも来てますよねっっ!(笑)」
笑っているけれど笑っていない。むしろちょっと嫌そう怒ってる。
視線の先には巨大なカメラを抱えたひとが居た。
さっきから振付完璧で揺れに揺れてアピールしていた熱心な人、見れば他にも数名。
一部そのひとたちのスペースだけは異様な熱、
他は酔ってのノリでの熱はあれども、全体的にシンとしていて、
ノリのいい歌ならまだノレるだけマシだったのだかバラード系になると
ひとりまたひとりと更に席を立つ。
「えーっと、時間はまだ大丈夫なのかな。ね、もう暑いしね。ねー。
あ、はーい、最後の曲でーす。最後は私のオリジナル曲ですお聴き下さい」
全力笑顔の彼女は懸命に付け足す。
「この後物販がありますからね。サインもしますので是非寄っていって下さいねっっ」
初めて聴く歌が流れる中、場はそれまでで一番盛り上がらないようななんだか困った感じになった。
 
歌のステージが終わる。
客席に座ったひとたちや立っているひとたちに神社の人たちが声をかけた。
「もうちょっとこのまま残って下さい」
え?
「この後にね、縁起物の振る舞いがあります」
舞台上に先程の歌い手は引っ込み、
神楽に出た人なのだろうか、恵比寿さんが小槌を振り、小槌からはお菓子が出てきた。
続いて舞台上から神主さんや関係者たちが登場し、お菓子などを投げたばら撒いた。
子供たちがわらわらと湧き群がる。大人たちも互いや子供たちを押しのけるように群がる。
先のステージよりも、先のステージよりもアツい盛り上がりだ。
ステージの脇に誰かが立っているのが目に入った。
ちいさい机を置いて先の歌手がCDを売っていた。
「チェキ1枚1000円」
笑っていないその人と2ショットを撮っているひとは
大きなカメラで撮り、振りを踊り、熱心に応援していたひととひとたちだった。
 
1986年のマリリン、夏の扉、六本木ララバイ、時の流れに身をまかせ。SWEET MEMORIES。
 
カオスな場、舞台客席と選曲、必死に必死な歌、空気と熱、ケとハレ。夏の終わり、秋の風。
 
笑ってしまった。笑ってはいけない。笑うしかない。
気付けば自分でも驚くほど涙があふれてきてマスクの中まで落ちてきて困った。
だから前の席の酔っ払いたちと一緒に全力で「フレッシュ、フレッシュ、フレ~ッシュ」で手を挙げたら、舞台上の彼女は満面の笑みを浮かべこちら側一帯に「ありがとぉ~~!」とぶんぶん手を振った。

◆◆◆
以下は、すこしだけ自己紹介 。
よろしければお付き合い下さい。

構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。
大衆芸能、
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

詳しいプロフィールや経歴やご挨拶は以下のBlogのトップページから。
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lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中です。
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5月1日から東京・湯島の本屋「出発点」で2箱古本屋、やってます。

参加した読書エッセイ集もお店と通販で売ってます!

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酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在19話🆕!!)と
大事な場所の話「Home」(現在、番外編を入れて4話)です。

旅芝居・大衆演劇関係でも、各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
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こちらのバックナンバーも、さきほどの「出発点」さんに置いてます。

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