見出し画像

自分の後に仕事をする人のことを考えて、仕事をしよう

先日、父のもとに大量の海鮮が送られてきました。父は設備を請け負う中小企業の役員なのですが、ちょうどこの間、大型ショッピングストア建設という大きな案件を終わらせたところでした。

北海道の海鮮市場から送られてきたその箱には、ウニ、イクラ、カニなど高級な海鮮が、パンパンに詰められていました。ちょうど取引先みんなで北海道に行く旅行があったらしかったのですが、父は持病の関係でその旅行に行くことはできなかったので、そのお土産かなと思いつつ、それにしてはお値段が張るようなものばかりでした。

「お土産にしては豪華じゃない?」と私が聞くと、「この間の案件で、儲けさせたからそのお礼だな」と一言。

経緯を聞くと、その海鮮を送ってきてくれたのは、断熱材を主に取り扱う専門業者で、父の会社の下請け業者さんらしいのです。断熱材を入れる工程は、特に段取りよく短期間で作業ができると、人件費がかからず儲けが増えるそうです。逆に段取りが悪いと、それだけ作業待ちの期間が発生して、受注額はかわらないので儲けが減ってしまうと。この儲けは、設備の施工管理をする人(この場合は父)の段取りにかかっており、父はなるべく下請け業者の儲けを増やすために、段取りをしっかりしてあげたそうで、そのお礼に海鮮が届いたという経緯でした。

このエピソードを聞いた私は、果たして病院業界に自分の後の作業を担うスタッフのことを考えて仕事をするという意識や考え方が根付いているだろうか、と思いを巡らせました。

病院内部には多くの工程とそれに関わる多くの職種が存在しています。患者さんに直接提供される医療だけでなく、あなたの作業の後は、仲間のスタッフが担当する作業が存在しています。

日本規格協会が主催している、品質管理に関する知識をどの程度持っているか客観的に評価を行うQC検定の重要な概念のひとつに、「後工程はお客様」というものがあります。「後工程に仕事をする人をお客様と考えて、丁寧に真摯な仕事をしよう」という考え方です。工程すべてに携わる人が、「後工程はお客様」のつもりで仕事をすると、全体の精度が上がって、顧客の手に渡るモノの品質は高まります。

あなたは、自分の後に仕事をする方のことを考えて、仕事をしていますか?後工程を「なんでもやってくれる自分の両親」だと思って仕事していませんか?

父の例の場合、後工程を蔑ろにするようなことをすると、二度と仕事をしてもらえなくなるという危機感があると言います。それはそうですよね。儲けさせてもらえない、粗悪な仕事しかできない「前工程」とは仕事をしたくない。当たり前の話です。

私たち病院業界の場合、同じ病院や部署に勤務するスタッフが、二度と仕事を一緒にしてもらえなくなるということはないかもしれませんが、あなたが後工程に流す仕事は、やがては巡り巡って良くも悪くもあなた自身の評価につながり、信用信頼の有無につながります。

あなたの後に勤務する方は、仕事がしやすいでしょうか。あなたの準備した薬や物品、機器を使用する人は、仕事がしやすいでしょうか。

工程と聞くと材料を加工して製品にしたり、工事現場で道路を整備することなどを思い浮かべる方も多いと思います。病院での工程の主要な物質は、「薬」や「医療機器」、「医療材料」などがありますが、病院業界で一番やりとりされており、一番重要なもの、それは「情報」です。

医師から出たオーダー。勤務交代時の引き継ぎ。患者さんの検査結果。観察で得られた所見。患者についての依頼書。入院診療計画書、退院療養計画書などなど、すべてデジタルかアナログか紙かカルテか形は違えど情報を加工して提供しています。

あなたがアウトプットした情報は、正確で、見やすく、間違いが起きないものですか?

あなたから出てくる指示・情報は明確ですか?

使用する医療機器、薬などの情報は使用者のことがわかりやすい情報になっていますか?

あなたの勤務交代時の引き継ぎは、ちゃんと伝わっていますか?

病院において情報は患者さんの命を左右することになります。患者さん自身、薬、医療機器そのものも重要ですが、それにまつわる情報をしっかりと後工程に渡していくことは、他業界と比較にならないほど重要です。

後工程を考えるということは、自分の仕事の目的を明確にしてくれます。ひとつひとつの仕事は分解すれば「作業」ではありますが、すべての「作業」はあなたの周囲の仲間が、仕事をしやすくすること。そして、患者さんに質の良い医療が提供されるようにするためにあるのです。あなたから出てくるモノや情報が粗悪である場合、損をするのはそのスタッフだけではなく、その工程の末端にいる患者さんです。

「後工程は患者さん」のように仕事をしていくことで、安全で質の良い医療を患者さんに渡していくことができます。まず自分から「後工程は患者さん」であるように、粛々と丁寧に仕事をしていきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?