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東京名物百人一首(5) 常盤津節/神田青物市場/日本画家・橋下雅邦/しんこ細工師・梶鍬太郎

常盤津節

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『東京名物百人一首

中納言行平
  立わかれ 田舎の客の つね
     松の常盤ときわは 今盛りなむ

※ 常盤津節の名人 常磐津ときわづ 林中りんちゅうが、明治期の常磐津節を隆盛に導いたことを題材にした替え歌と思われます。また、「松」は 常磐津の曲「松島」や「松の羽衣」のことと思われます。

【元歌】
  立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる
    まつとし聞かば 今帰り来む

※ 昔のひとは、飼い猫がいなくなったときに、紙にこの歌を書き付けて猫が帰って来るのを祈ったそうです。


神田市場

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『東京名物百人一首

在原業平朝臣
  千早振 神田かんだ市場いちば 昔より
    かづ野菜やさいに 水菓子を売

【元歌】
  ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
    からくれなゐに 水くくるとは

※ 「千早振」は、ちはやぶる。
※ 「神田かんだ市場いちば」は、神田青物市場のこと。
※ 「水菓子」は、果物くだもののこと。

神田市場 新年會 三十六年二月八日

鹿ケ谷かぼちゃ、ゆり根、蓮根、里芋、
くわい、はじかみ、かぶ、青菜、栗、松茸、椎茸 など

※ くわいは赤芽芋のようにも見えます。


日本画家 橋下雅邦

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『東京名物百人一首

藤原敏行朝臣
  すみの畫は こと雅邦がほうに よるさえや
   筆のかよひし 人のすくらむ

【元歌】
  住の江の 岸に寄る波 よるさへや
    夢の通ひ路 人目よくらむ

※ 「雅邦」は、日本画家の橋本はしもと雅邦がほう氏。

明治三十五年十二月五日ヨリ十一日マデ
上野公園日本美術協會ニ於テ開會
雅邦翁 銀婚祝賀 絵画展覧會 招待券
画寶會 

※ 「画寶會」は、有志が集まって作った橋本はしもと雅邦がほう氏を支援するための会。画宝がほうかい


しんこ細工師 梶鍬太郎

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『東京名物百人一首

伊勢
 なりわいの みじかきかじの くは太郎たろう
   わざで此世を すごしてよとや

【元歌】
  難波潟 みじかき葦の ふしの間も
    逢はでこの世を 過ぐしてよとや

※ 「かじくは太郎たろう」は、明治時代のしんこ細工師 かじくわ太郎たろう氏。
※ 「しんこ細工」は、糝粉しんこ(精白したうるち米を乾燥してひいた粉)を水でこねて蒸して彩色し、人や動物、花、果物などの形を作る細工。かつては縁日や大道芸で見られたそうです。糝粉しんこ細工、新粉しんこ細工。

しんこ細工
竹篭にりんご、桃、梨

梶鍬太郎は、牛込築土邊に住し、しんこ細工の名人にて、諸方 園遊会、又は 宴会の席上に招かれて、興を添ること屡ゝ有。これ東京名物の一つ也。

※ 『東京名物百人一首』の著者(清水晴風)は、別の著書でしんこ細工師を描いています。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『世渡風俗圖會 [7]
しんこ細工
出典:国立国会図書館デジタルコレクション『世渡風俗圖會 [6]
しんこ細工の鍬吉



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