千田つむぎ

19歳/早生まれ/岩手▶️東京 お芝居をしています  架空の町の話を本当みたいに話すのが…

千田つむぎ

19歳/早生まれ/岩手▶️東京 お芝居をしています  架空の町の話を本当みたいに話すのが好きです

最近の記事

【短歌】ある日のほんとう

うまれる前 ラジオが友だちだったころ わたしは風とはなしができた デパートの屋上メリーゴーランド いつかのほんとう今日の通せんぼ まっ白にくもっためがねの向こう側 にせものの霧がたちこめている 12時のプールのあとのぬれた髪 青いくちびる もやしのナムル たったひとつのほんとうなんてないというたったひとつのほんとうがある

    • 春の風とレモネード

      ストレンジシード静岡が気になって、ひとりで静岡に出かけた。県をまたぐひとり旅は2回目だ(思えば前回も観劇のためだった)。在来線を乗り継いで、片道4時間ことこと電車に揺られていった。自他共に認める地理の弱さ、人見知りかつ迷子常習犯なので、ひとりで知らない場所に出かけることのハードルはすごく高い。でも今回は、行かなきゃ後悔する気がする、という根拠のない予感のもと、お財布に謝りながら行くことを決めた。 静岡駅に降り立ったときから(いや、道中からか)、無防備な安心感と居心地のよさが

      • 【短歌】春のまいご

        春だから それを理由にすることにためらわないからもう春なんだ 風とワンピース 通りすがりの赤ちゃんと不思議な目の合い方をする 口笛を吹きたいようなくちびるを春の空気がすりぬけていく 身ひとつでことばをさがす旅に出る 迷路のなかで今日の春風 春の女の子春のくちぶえ春のうみ「春の」が形容詞になりかける春

        • 春の食卓

          昨日、テディベアがインフルエンザから戻ってきた。見ない間にちょっと痩せていたけれど、すごく背が高くなっていた。「一皮むけたねえ」と言った丘枝先生、あなたやっぱり変わっているよ。でもわかる、正直わたしにもそう見えた。 夫と朝ごはんを食べようとしたら、電話がかかってきたのでわたしが出た。聞き覚えのない声だった。 「春の七草の選択のことなのだけれど、」 「…え?」 「せりなずな、ごきょうはこべらすすきのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草」 「ああ、七草粥、」 「たんぽぽは入

        【短歌】ある日のほんとう

          晴れた雨の日

          駅を歩いている。バスターミナルのベンチの前で弾き語りをしている男の人を通りすぎる。和菓子屋の前でおまんじゅうを食べている小さなおじいさんを通りすぎる。駅にはいろんな人がいて、でも彼らのことを理解するには圧倒的に時間が足りないし、今の私は飽和状態だ。1歩進むごとに、体の細胞が1つずつ無に還っていくような感覚があって、私はそれに気づかないふりをして、平気な顔をしてずんずん歩く。歩いているうちに足元がぬかるんできて、あ、違う、ぬかるんでるんじゃない、これは水だ、ここは海だ、 今海

          晴れた雨の日

          【短歌】生きる

          生きてたら傷つかないといけないのだけど死んだら傷つけるのよ 通りすがりの猫がわたしを見ています、だからわたしは今日も生きてます かくれんぼ見つけなくてごめんでもわかってたとは言いたくなかった Wi-Fiが自動接続されたから「わたしはこことも繋がっている」 またあした笑いながらなきながら涼しい夜をひとりあるくよ

          【短歌】生きる

          その日

          その日は雨が降っていた。雨と霧の境目みたいなささやかな雨。みずたまりの表面をうるうるとゆらすくらいの。 私はバス停でバスを待っていて、時刻表の上に貼られた、今月末で廃止されるバス停のリストを眺めていた。聞いたこともないようなバス停ばかりで、出会いもしないまま、静かに止まっていくものがたくさんあるのだと思った。 体を伸ばすと、思いきり膝が鳴った。さびついている、油をさしてあげなくては、と思った。鳴った、と、思った、がどこか似ている気がして(今思うとどうしてそう思ったんだろうね)

          プリキュア、あるいは食パンについて

          小さいころ、1度だけプリキュアのDVDを観たことがある。青色のプリキュアの子が朝ごはんを食べるシーンだけなぜか鮮明に覚えていて、それは、ダイエット中だからと言って(「朝は多めに、昼夜は少なめに」)お母さんの分の食パンまで食べてしまうのだ(「ママの分は?」「ない」)。どうしてそのシーンばかり覚えているのかわからないが、おかしなことだが私にとってプリキュアといえばそれなのだった。 幼稚園でのプリキュアごっこでは、青色のクールなあの子に憧れながら(だってみんなが彼女をやりたがった

          プリキュア、あるいは食パンについて

          春の風が吹いた夜

          はじめてサニーデイ・サービスのライブに行った。 ライブに行くこと自体はじめて、熱狂的に盛り上がるのもあまり得意なタイプではなく、もしかして場違いでは、とちょっとどきどきしていたけれど、安心して好きなように居ていいんだと思える素敵な空間だった。客層も幅広く、半分踊っているような人や、完全に踊っている人や、黙ってまっすぐ見ている人や、目をつむっている人や、いろんな人がいて、それを見ているのも面白かった。同じ歌を好きな人たちが、ただただそれを浴びている時間。みんな幸せそうで、すき間

          春の風が吹いた夜

          ちいさなドラゴンの話

          わたしは絵を描くのがすきな子どもで、絵を描きながらお話をつくるのがすきな子どもだった。絵を描くのとお話をつくるのとそれを口に出すのと、すべて同時進行で、喋りながら絵を描いていた。中でも当時お気に入りだったのが、きのこの家に住む女の子の話だ。彼女は、毒きのこ代表みたいな、赤に白の斑点もようのきのこの家で、ちいさなドラゴンと暮らしている。ドラゴンなんだけど、飛んでるシーンを描いたことは1度もなくて、女の子を乗せて飛んだりもしなくて、むしろ女の子が台車に乗せて散歩に連れていくのだ。

          ちいさなドラゴンの話

          【短歌】記憶

          見上げればあの日歩いた橋があるあの夕日あの隣のひとたち 同じおときいて同じ歌うたい一緒にそらをみあげるということ 缶コーヒー飲んでた人のいたあとは白色のそらに薫るコーヒー あの時の瞳の色を忘れないわたしにあなたのなにがわかるの 思い出は忘れた頃にやってくるあなたにわたしのなにがわかるの

          【短歌】記憶

          【短歌】道すがら

          国道を挟んで向こうのLAWSONが異世界めいて見えていた夜 もう一度すれ違ったら運がいい何度もこうやってすれ違おうよ 輪郭を共有しながら見失うつららになれずに落ちる雨粒 揺れているビニールテープの向こう側夏のかけらが見えた気がした 夜だって思った光が朝だったつまりこれははじまりだった

          【短歌】道すがら

          【短歌】暮らす

          ぶどうジャム入りの四角いそのパンが想像以上にぶどう味だったこと コンビニのビニール袋をぶらさげてトートバッグのふりをしている 名前だけ知ってた場所で暮らすまでの長いようで短い逡巡 ぼくだけが土の匂いを知っている深くやさしく爪が汚れる ぱっとしない毎日の中を生きているぱっとしないにはっとしながら

          【短歌】暮らす

          【短歌】電車 2

          駅員の電車遅れの放送が感情的に聞こえたあるひ 不規則にこくこく(刻々)ゆれる夢のたび鉄道沿線かたわらの森 終点に近づくほどに閉じてゆくまぶたの裏に月のでこぼこ ポージングつり革つかむおじさんの破れたビニールからのぞくRed Bul 吐瀉物を浴びて思わず顔しかめ電車の中でむかえる朝日

          【短歌】電車 2

          【短歌】電車

          家にきて初めてあいつが弾いたのはカンカン鳴ってる踏み切りの音 走り出すダイヤ通りの通学路 線路の向こうに見える霧のまち おにぎりの形にも似たつり革を必死でつかむ少年がいる やさしげに降車ボタンを押している電車の守り神みたいなおじいさん 全員が目を閉じあわくうつむいてお祈りしてるみたいな乗客

          【短歌】電車

          起きて、なんだか口寂しくて、キャラメルを1つ口にいれた。底冷えする朝、節約のためにエアコンを切った部屋はさむく、キャラメルはとても固くなっていた。歯を立てると、かりっと変な感触、なんだろうと思ったら、歯列矯正のブラケットがひとつ外れていた。痛くはないのだけれどやはり気になって仕方なく、食べ物も食べにくいので、歯医者さんでなおしてもらうことにした。空っぽの今日に、歯医者さんに行くという予定が書き込まれた。いらなかったはずの出費だし、全然うれしくないことなのに、ちょっと安心した自