空回り

ベルセルク
BASARA
ロミオとジュリエット

運命というのは何と残酷なものか。
愛する者を引き裂く名作は数多あれど、令和に起きたこの出来事以上の悲恋はないでしょう。
それは5日ほど前のおはなし。


記事を読み終え、私は一筋の涙を流しました。
さよなら、たけのこ。
今から私はくさびらの忍びとして生きています。

私はその時々の都合に応じて、己の中にある軸という軸を抜き去る奥義を習得しています。
めぐみティコさんがきのこの忍びと知った瞬間、長年私を育んでくれた、たけのこの里を出て、山深いきのこ山麓へ足を踏み入れる決意をしました。

およそ今の私は、めぐみティコさんに媚びを売るためであれば、大抵の法は犯せます。
めぐみティコさんが「あのポストは黒いよね」と言えば、翌朝までに該当ポストに「アサヒペン 油性スーパーコート ツヤ消し黒」をぶちまけているでしょう。

そんな私が、きのこに寝返ることなど造作ない。
まして忍びの世界では、何かを信じる方が愚かです。

父上も母上もどっかのオババも、掟の手前私の命を狙いつつも、気持ちの上ではきっと許してくれるでしょう。

そんなわけで、早速「私もきのこ派です」とコメントしようと思ったのですが、ふと指が止まりました。
なるべく命を狙われないよう穏やかに、たけのこをサゲる作戦を思いつきません。
また、数秒前までたけのこ派であった私は、きのこを賞賛しようにも、ほとんど語れる言葉を持っていないのです。

論拠なく上辺だけのきのこ讃美をしたとしても、ティコさんはあっさりと、たけのこどものチョココーティングのように薄い私の心の内を見抜くでしょう。

これは困った。もし私の前職がたけのこの忍びだとバレてしまったら、里を捨ててまで寝返った挙句ティコさんに嫌われ、きのこの仲間にも入れません。
そうなったらまるで空回りのピエロです。忍びからピエロのジョブチェンはいいとして、ティコさんに嫌われるのはイヤです。

そうして私が困っている間、コメント欄では真性きのこ先輩方が、次々にきのこの狼煙をあげています。中には和合を訴える清い方もいて、サゲるかアゲるかしか考えつかない、己のツヤ消しブラックな心への罪悪感が半端ない。

このままでは分が悪すぎます。
下手なコメントを残せば、ティコさんが私に割くリソースを減らしてしまうかもしれません。

一旦退こう

私はコメントを残すことなく記事を去り、自身がたけのこであった記憶が消え去るほどに、きのこを知る旅に出ようと誓ったのです。


私が旅に出て数日後、ティコさんの全裸宣言が出されました。

想定外のジョブチェンです。さすがです。
まさか、きのこ総大将から数日で神化するとは。

こうなってはもはや、私の寝返りは意味を成しません。
ティコさんはアメノウズメ(踊り子)を目指すそうですので、むしろピエロに転職したほうがお近づきになれそうです。

ならば何事もなかったかのように里に帰ろうかとも思いました。
けれど一旦里を出た身としては、今さら里に戻るのも気が引けます。というか処されます。
であれば私は、いつか踊り子になったティコさんの主演舞台に呼ばれるよう、前座の務まるピエロになろう。
舞台打ち上げ後の2次会カラオケでホーミーに耳を傾けつつ、さり気なくきのこの山をつまめるピエロになるために、今から仕込みをしておかなければ。
私はそのまま、きのこの山にて自活を続けることにしたのです。

そこからさらに数日が経ちました。
もはや自分がたけのこの里で生きてきたことも、忍びであったことも忘れ、何ならそんな戦が起こっていることすら忘れてきのこ推しピエロとしての暮らしが板についたころ、更なる衝撃が私を襲います。

私が山に籠っている間に、きのことたけのこの講和条約が結ばれようとしていたのです。
私なりに努力はするものの、施策が全然追いつきません。
日を追うごとに、日本の感染対策ばりに置いてけぼりです。

まずい。
講和が結ばれてしまえば、ここ数日で身につけた、たけのこディスりの芸を披露する機会も、ティコさんへの2次会アピールも計画倒れです。

ここは私がダークヒーローとして何らかの事件をでっち上げ、矛を収めようとする両者に新たな火種をくべるべく画策せねばなりません。

ひとまず和平を歓迎するフリをしようと、ティコさんに「自分がたけのこ派であること」を告げます。
私がきのこへ寝返ったことは、まだ誰にもバレていませんので、きのこ側のスパイとして、たけのこの里へ戻る作戦です。
ところが。

かつての里の長、マイトン上忍にスパイ作戦を見破られ、ロックオンフォローされたとの報告が…!
里では下忍の小間使いほどの存在であった私に、なぜ上忍が?
これまでの私の所業がバレてしまえば、間違いなく殺されます。
というかロックオンされた時点でほぼアウトです。

早速Amazonでエンディングノートを物色し始めたのですがなんと!
和平を呼びかけた張本人でもあるマイトン氏は、私を殺めるどころか、私の記事にコメントを残し、快く迎え入れてくださると言うのです。

なんという いたわりと 友愛じゃ…(友情出演:大ババ様。この台詞の解釈は諸説ありますが、コミックに倣いこちらを正とします。)

私はこんなにもあたたかで優しい、たけのこの里を秒で捨て、きのこへ寝返ってしまったのか…。

一滴のインクが水面に広がっていくように、後悔が私の腐海全域に広がります。魂の浄化です。

けれど。
マイトン上忍の好意に甘え、たけのこ里に寝返りの寝返りをする行為は、ティコさんと袂を分かつことを意味します。

この一連の出来事を超す悲しみが世にあるでしょうか。
悲恋モノにありがちな、己の立場とまことの心との葛藤描写をすべてカットしてティコさんに迎合したにも関わらず、人類史上最高に一方的な悲恋です。

こんな切ない別れに耐えられるわけがありません。けれどここまで頑張って読んでくださった方ならお分かりでしょう。
私のあれこれの画策が、すべて裏目に出ていることを。
…それでも私は諦めない。このままで終われるものか。

私は賭けに出ました。
ティコ&マイトン両大将にすべてを告白し、何事もなかったかのように過ごす第3の道を切り開こう。

意外にもこの計画はあっさりと成功しました。
私のコメントは他のたくさんの方のコメントに紛れ、パルスイートより素早くお二人の日常の一コマに溶け込みました。
私の魂の告白は、何事もなくスルーしていただいたわけです。

が、ティコさんより、今回の「きのこ・たけのこの役」にて私が味わった心の葛藤が気になるとの勅語を賜り、かつ抱擁を確約いただいたので、ここに晒すことと致しました。

以上です。

さて、9割の方が離脱する中、ここまでご目労いただきました方々、誠に恐縮です。
皆様に謝意ありがとうを、そしてお一人の方には謝意ごめんを表すお時間になりました。

私がこのひとことを囁けば、この言葉に囚われてしまったnote界イチと名高い編纂者が動かざるをえなくなります。

今月は今まで以上にお忙しそうな、その方の手を煩わすのは本意ではありません。
けれど、ここまできのこを連呼し、関連する記事も彼の圏内にあるとなれば、言わずに終わらせることで逆に手間が増えてしまうかもしれない、と判断いたしました。

コニシ木の子さん、どうかご無理なさらず。
なんのはなしですか

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