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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(著:桜庭一樹)【「えらい弾薬消費量だな。激戦か?」「何せ読書紹介の弾薬は食べられるもんで」「死ぬなよ(成人病的な意味で)」】

日本のカルト的評価を受けている名作ラノベ。
著者の桜庭一樹は「ゴシック」とか、もっぱらラノベ作家だったんだけど、
文学の世界にも挑戦して踏み込んでくる人。
最初の頃は、いまいち空振り気味だったが、最近はキマるようになってきたらしい。

そして男性風の名前だけど、女性作家である。
(もうお爺ちゃん、作家の性別はわからないって前にも言ったでしょ!)
ほんと、アーチストの性別だけはもう、勘弁してくれって感じ。

さて、なぜこの薄くて短い小説がカルト作品なのか?
私は、カルト的名作になるためには、不十分であることが逆に重要と見ている。

評価が定まった名作は完全だが、
カルト的名作は、知名度が高く、作品がどこか中途半端である、という二つの条件を満たしている必要がある。私が考えたところ。

その欠落した部分を、読者や視聴者が勝手に埋めてしまうために、
逆に世間で騒がれるようになってしまうのではないか?

「かもめのジョナサン」しかり。
「ある愛の詩」しかり。
「ライ麦畑でつかまえて」なんかもそうかもしれない。
「羅生門」とかもそうかな。

長い話じゃないし、短すぎて何かが欠落しており、
そして想像の余地が多くて、
そして(ここが重要だけど)ものすごく知名度が高い。
知られているのだ。

完成度が高すぎると、
それは単純に「名作」と呼ばれるカテゴリに含まれてしまい、
カルト的名作では無くなってしまう。

カルト的名作は、何か大事なモノが欠けている。

自分が生きていたころ、
リアルタイムで観測されたカルト的名作はに、すごく心を踊らされる。

ただ自分で読んでみたところの感想は、いまいち、だった。
そりゃそうだ。不完全な由縁である。

簡単なあらすじ。
ネタバレ必至かも。なるだけぼかします。

=====
主人公は、両親がおらず、兄が引きこもりなので、
高校卒業後は近所の自衛隊に就職しようと思っている。
それくらいしか就職先が無いのだ。

だからいつも心に銃を持ち、残酷な現実と戦う兵士の心持ちでいる。
そんな少女。
しかし唐突に友だちが出来た。
その友たちはものすごく風変わりで、
名前も行動も変で、奇行ばかりだったが、
なぜか憎めなくて仲良くなった。
お互いに、残酷な現実に打ちのめされがちな、青春時代を送っていた。

しかし彼女には重大な問題があって、それが・・・

最後に主人公は、夢見がちな兵士の世界に耐えられず、
現実に戻らざるを得なくなる・・・・助けを求めるのだ。

☆★

いや、ある意味ハッピーエンドだけど、ある意味バッドエンド。
こんな展開ってある?
いや常識的に考えて無難な展開なんだろうけど。
モヤモヤっとしたものが、心に残ること請け合いだ。

だが、ここが良い。

それはまだ中途半端だった、ラノベ作家から文豪にクラスチェンジしようとしていたころの桜庭一樹だけが書けた、不完全な文学作品だ。
筆力が上昇した今の桜庭一樹には、多分こういうの逆に書けない。
もう書けない。
こういうエンディングでは納得できないし、
どうにか変えてしまうだけの技量もある。
作者がこういったテイストの作品を創ることはもう二度とないのだ。
だからこそ、カルト的名作。

↑ こんな感じ、いやそこまではないかも。

そのモヤモヤ感、その一期一会ぶりが、この作品のカルト的名作度をさらに上げている。
読んでみたら、つまらない。
いや面白い。納得できない。かわいそう。鬱展開。
などなど、様々な評価が出てきて、決して一様ではない。
しかし評価が分かれる作品ほど、社会に爪痕を残した作品ということでもある。

別時代人がこれを読んだら「つまらん小説」と一蹴するかもしれないが、
我々の世代は確かに、これに影響を受けてしまった世代なのだ。
そういう意味で、私たちの時代精神を顕わにしている作品でもある。
これが我らの世代が観た、我らの世界観なんだ。

良くも悪くも。
セ・ラ・ヴィ、セ・ラ・ゲール。
(それが我が人生、我が戦争)

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