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【もこもこ怪獣は今日もモコしてる。】3食目。「熟成するまで待つのもアリ」

もこもこ怪獣のビャッキーは、今回は未来的な都市に来ている。
ただこの国は独裁政権であちこちに監視カメラがあり、
大人も子供も制服を着ている人が多かった。
ただ社会は豊かであり、独裁者には経済運営の才能があった。
もちろん「もこもこ怪獣」のビャッキーにはそんなこと知るよしもない。

少年隊員のゼクトは子どもたちが来ている青い制服を汚してしまっていた。
ファッショナブルな青い制服は、少年ならみな憧れる軍服調であり、しかも貧しい家庭の子どもにも無償で貸与される。出自ではなく努力と才能で評価される。
努力できれば、才能があれば、の話。
ついでながら本当に出自が良ければ、まあやはり大目には見てもらえる。
ゼクトにはどれもがなかった。
ある時、まだ説明されてないことをやれと命じられた。
それについて「まだ説明を受けていません」というと「貴様はさぼることのできないクズなのか?」とののしられた。「最初に全員に教えたはずだ」最初の時は教官の命令で用具を取りに行かされてた。だがそのことを誰もが忘れていたのか。
「いや、僕は」
言い訳を繰り返し、協調性がなく、素性が悪いと決めつけられた。
あるいはゼクトに関することだけ異様に厳しくされた。それは規定だった。だが先輩たちが規定を破った時は、お互いに「やっちまったぜ」と笑いあっていた。
ゼクトだけが失敗したとき、いつも大声で怒鳴られた。注意を受けるときは常に侮辱まじりだった。
せめて自分は規定を守ろうと真剣に努力していると手抜きをしている先輩たちは「作業が遅い!」と怒鳴りつけてきた。
班の成績が悪いのはいつもゼクトのせいにされていた。
母はゼクトに期待していた。
父が居なくなった今、ゼクトは母の希望であった。
最終的には制服を汚された。神聖な制服を汚すことは罰則が適用される。
どうやって明日までに洗って乾かせばいいのか。仮病を使うしかないか、
そう思って歩いていたところ、
なぜか通路に置いてあったタンスが倒れてきた。
そしてタンスから女の子が転がり出てきた。
「お腹空いた~」
空腹にたまりかねたビャッキーは寝ることで紛らわせようとしたのだが、もちろんお腹がもっと空くだけだった。肉食獣の生活は厳しい。

「おいしい!ナニコレ!」
「何って、賞味期限切れのレーションだけど」
「これか!時間が経つと美味しくなるやつか!じゅ・・じゅうにく!」
「たぶん違うと思うけど、それに時間が経つとまずくなるだけだと思う」
少年は、少女が言っているのはおそらく熟成のことだろうな、と思った。
ビャッキーは少女同盟の制服をどこで手に入れたのか、着こんでいたので、
ゼクトとしてもあまり不審な人物とは思わなかった。
近所の子にこんな子がいたかな、ぐらいである。
「これは良いタンパク質が入ってるよ」
「まあ人造肉だろうけど」
ぐうう。
お腹が鳴ったのはゼクト少年の方である。
「も、もしかして君もお腹空いてる?」
「ま、まあ賞味期限切れのレーションをたくさん安く買ったのは食べるためだからね」
「分けよう!」
「いや、わけるほどはないんだ。君が食べていいよ」

でもモコモコは気づいた。
「服、どうしたの?もしかした嫌な目にあってる?」
「いや、大丈夫だよ。気にしないで」
慌てて誤魔化したが、実際、どうしよう?
「そうだ。余ってる服をあげる。こっち」
ビャッキーは大量の服が余ってる部屋にゼクト少年を連れて行った。
「ここのは好きに使っていいんだよ」
「でも、見つかったら大変なんじゃないの?」
「大丈夫」とビャッキーはゼクト少年が不安になるくらい自信満々だ。
というより、ゼクト少年は気づいた。
この少女は近所の少女同盟の子とかじゃないぞ。
いったい、誰なんだ?
そして、それと同時に一緒にいるとなぜか安心することも。

「ここは忘れられた部屋なの」
ビャッキーがこちらの世界に来てから食べた子のひとり。
彼女が担当してた部屋。
そして彼女が居なくなった時に行方不明になった部屋。
しばらくは誰も来ないだろうということ。

彼女はこの建築物でいちばん古い家庭の出だった。
特にふしぎな能力とかはもってなかったけど。
失われた秘密をたくさん知っていた。
そして秘密を抱えたまま、いなくなった。
だからこの部屋のことも誰も知らない。

それと同時にゼクト少年は、ビャッキーの正体にもそれとなく気づいた。

***

しばらくの月日がたった。
少年は立派に成長した。
誰も彼を不当に扱える存在はいなくなった。
ゼクト少年は非凡な成績をいつしか出すようになった。
そして少年隊員の中から親衛隊員が抜擢されることになり、成績優秀なゼクト少年は見事にそれに選ばれた。もう少年ではない。
母は亡くなった。
ゼクトにとって失うべきものもなくなった。

そして、やがて独裁者の個人的護衛にまで抜擢されることになった。
マルコルム大統領はマルコルム一族の4代目の大統領だった。
だが彼はこれまでのマルコルムとは違った。
「マルコルム家の支配を終わらせようと思うんだ」
信頼できる側近にのみ、4代目はそのことを告げた。
「民主化と言えるかどうかはともかく、これ以上、国際社会を敵に回しても我が国の発展はない。それどころか隣国に侵攻される口実を増やすだけだ。今のままではどのみち我がマルコルム家も滅ぼされる」
4代目は状況を冷静に分析していた。
「生き残るためには大国を味方につける必要がある。それは我がマルコルム家の権勢を手放すことだ」
「残念です。閣下」側近であるゼクト隊員は言った。
「いや、大丈夫だ。私には自信がある。必ず国際社会から我が国の主権と独立を守り抜いて見せる。私自身のことも、そんなに心配せずとも大丈夫だ。穏健な政権移譲のためにも、彼らは私には手を出せないだろう」
「そうではありません。閣下」ゼクト隊員は言った。
4代目はそこで、ようやく自分の護衛の方を振り向いた。
「私は幼いころに約束してしまったのです。ある怪物と。この閉ざされた狭い世界に終わりをもたらすと」
「ゼクト君、君はいったい・・・」
ゼクトはすでに人間の姿をしていなかった。
それは、モコモコ怪獣だった。
「お別れです。閣下」
それはゼクトの声で言っていた。

その国は独裁者の突然の失踪により、内戦状態になった。
混乱はいまだに収束しておらず、国民の一部はまだ平和だった独裁時代を懐かしんでいると言われる。

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