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【モコモコ怪獣は今日もモコしてる。】4食目「想像力は最高のスパイスである」

学校では噂になっている。
超能力者の臓器を移植されたらどうなるか?
そんなトピック。
いわく、臓器の持ち主の記憶が乗り移るとか、あるいは超能力は臓器に依存するので、超能力者になる、とか。
超能力臓器の持ち主になるのは難しい。死ぬリスクが高いのだという。
しかしすでに超能力者から臓器を奪って、自分に移植するのなら話は別だ。
それは安全にできる。
今ある財力と権力をさらに強化するために、一部の者が禁断の果実に手を出したのだ。

どこかの雑誌社がそんなスクープ記事を出した。
とうとうゴシップ雑誌からオカルト雑誌に転落したか、と揶揄されたが、少女はそれが本当であることを知っていた。

なぜならば。
「あたしがそうだからよ」
ビャッキーは彼女の目の前でポッキーを食べていた。
ポッキーあげたのだ。ラベンダーラズベリー味。

さては全然信じてないな。この娘は。
なんとなく彼女はそう思ってしまった。

「私は本当の超能力者なのよ。わかってる?」
「うん」
「あ。ぜんぜん信じてない」
「論より証拠だよー。もう食べちゃった。じゃあいくね」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!」

待ってと言われて待つ怪物はいない。
うさぎの速さで飛んで行ったモコモコを、のそのそ走ってるつもりで追いかけていくが、すぐやめた。
「ぐはぁ、だめだ」
運動性ではかなわない。

でも。
「私は本当に能力者なのよ。だってあいつがわかるんだもん。ヤバいやつでしょアレは」
しかし聞く耳持ってくれないのだ。
「一般人に正体ばれてる時点で気づけよ。お前のことを知っているのはあたしだけなんだよ!」
往来の人通りの中で叫んでいるので、周囲の人々がこっちを見るようになった。
「あ、いや、すいません」
逃げた。
さっきよりよほど速く走れたと思う。

いやしかし。
どうにかしてコンタクトを取らないと。

私はこう見えて金持ちのお嬢様だ。幼いころに臓器移植を受け、そのころから奇妙な体験をするようになった。だから、あの都市伝説が事実だとわかる。

そしてモコモコ怪獣もそのことを知っている。
臓器提供予定者を食べて、その能力を引き継いでいるから。
しかし、あいつ実際には知能はそれなりに低い。
おそらくよくわかってない。気づいていないというか。

さて、どうするか。

*******

私はモコモコ怪獣を再び待ち伏せした。
私にはこの世界に書かれてる言葉が読める。
どこへ行けば、何が起こるかも。

それが、私が移植で受け継いだ能力だ。
だから真昼の公園でぶらついている彼女をすぐに見つけた。
「見つけたビャッキー、今日こそは話を聞いてもらうわよ」
「お前か。ビャッキーを悩ませているやつ」
普段と口調が違う。
こいつはあれだ。ビャッキーの中にいる別人格だ。

ある薬剤によって発生するが、生き残って無事に獲得する可能性は低い。
兵士でも募るならそれでも貧しい人たちに使えばいいけど。
そう、そうやって貧しい人たちの中には、能力の獲得者が稀にいる。
そうやってモコモコに食べられた人のひとり。

「救済されし者よ。私の話を聞いて。どうか私のことも聞いて」
私は話した。都市伝説が本当であること。
そして私が本当は貧民街の出身であること。

「君は誤解しているようだけど、僕たちは相手の人格を覚えて再現しているだけだ。我々に食べられても我々の中に魂が入るわけではないよ」
また別の人格が現れた。
この子は何人、食べてきたのだろう?

先回りされた。
「どうぞ。私のことも食べて」と言おうとしたのにあらかじめ封じられた。
いや、まあそっちはいい。
重要なのはこっち。
「世界に私たちのことを伝えて。私たちの事実をみんなに伝えて」

「うーん」悩むモコモコ。なんで悩むの?
「やっぱだめ」
「なんでよ!正義のためなんだよ!」
「せーぎ、かんけーない」とモコモコ。

そうだった。こいつは人類の道徳が通用しない異種族なのだ。
公正とか公平とか正義とか、そういうのがわからんのだ。
どうしてやろうか?

***
私の眼には見える。
私を食べたモコモコ怪獣が、私の姿でテレビに出現するのだ。
「超能力者の臓器が、富裕層に買われているという話ですが」
インタビュアーが聞く。
私は答える。「そうです。そのゆるぎない証拠を見せます」
私は怪物としての本性を現して、そのインタビュアーを食べてしまう。
スタジオは騒然とする。
歴史は変わる。
***

「そもそも、あなたは誰?」ビャッキーが問う。
「私、私は・・・」
名前が思い出せなかった。自分の名前が。

***
そう、厳密には私は捕まったり売られたわけではない。
飢えていたのだ。
こびりついた飢餓の記憶。
こんな思いをするくらいなら、死んでしまった方が良かった。
だから。
だけど体が変わっても、飢餓の記憶からは逃れられない。
***

でも、私は飢えてはいない。
あれ?
おかしいな。私は。

気がつくと、モコモコ怪獣はいなくなっていた。
まるで最初からいないみたいに。
真昼の公園に残ったのは、私ひとりだけ。

***
あれから何十年かが経った。
今ではあれが、若さゆえの妄想だったとわかっている。
物心ついたころから、私はそういう妄想を抱いていたのだ。
私の自我が移植された臓器記憶に由来すると。

私は結婚し、子どもを産んだ。
私はいまその子を抱いている。
私は私だ。自分が他人であるという少女特有の妄想はずっと昔に卒業した。
いつまでも少女のままではいられない。

テレビがついた。
番組ではインタビュアーが、背が高くて若い男性に質問していた。
「超能力者の臓器が、富裕層に買われているという話ですが」
背が高くて若い男性は答えた。
「そうです。そのゆるぎない証拠を見せます」

私はテレビを消した。
この続きがどうなるか、もう知っているから。


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いつもありがとうございます。
過去話へのリンクを貼っておきます。

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