見出し画像

【渡邊惺仁さん企画参加】或る男の嘆き❷

翌朝、出勤した守島はまだ誰も来ていないオフィスで、デスクの上に内部資料入りの封筒を並べた。報道各社に送るべきかどうか昨夜から迷っていたのだ。

そこに、思い掛けず直属の上司である真木が不意にやってきた。
「ねぇ、守島くん。どうして操作用手袋をはめているの?その封筒は何?」
尋ねられた守島は、ちょっと顔を曇らせて封筒をしまった。

真木は直属の上司にあたる。何か隠し事をしても、いつもばれてしまう直観と眼力の持ち主だ。

「守島くん。またスタンドプレイしようとしてないかしら?」
「真木さん、そんなことするわけないじゃないですか」
そう答えた守島の目はしっかりと真木を捉えていたが声は上ずり、しまったはずの封筒を焦って一つ床に落とした。
「ちょっと見せてくれる?」
真木は封筒を素早く拾い、封を開けた。中身をひと目見て全てを察した。真木はその封筒を破り捨てた。
「他の封筒も全て、没収ね」
守島は、言われるがままに封筒を上司である真木に差し出した。
「あなたのもっている正義感は刑事には必ず必要なものなの」
真木は、守島の瞳を睨みながら言った。
「だけどね、過剰すぎる正義感は暴力になるわ」
守島は、何も答えられず唇を噛んだ。自分がこれからやろうとしていることが「正義」なのか「脅迫」なのか既に分からなくなっていたのだ。

「守島くん、組織で動くことは融通が効かなくて解決に至らないって思ってるんでしょ?でもそれは違う」
真木は、座っている守島に顔を近づけた。
「手分けしてもっと証拠を集めてからでないと、あなたが求めたかった真実には辿りつかない」
「はい、真木警部補」
「ほら、そんな顔してないで、仕事しなさいよ」
「は、はいっ」
守島は、捜査中の資料を慌てて書棚に取りに行った。背後から真木の声が聞こえた。
「もし、封筒を郵送してしまったら、あなた、懲戒免職になっていたわね。私に感謝してくれないかしら?」

その夜、守島はいつもの居酒屋で、一人用の鴨鍋を二つ頼んだ。
「真木警部補、ここの鴨鍋は絶品なんです。この固形燃料を使い切る手前で消して余熱で加熱するとさらに鴨肉が柔らかくなるんですよ」
「あら、やけに詳しいわね。仕事もそのくらい慎重にやってくれたらいいんだけど」
真木警部補は、鴨鍋を食べながら酎ハイを2杯飲んだ。守島は、ノンアルビールを缶で飲んでいた。
「私もね、この国の正義はどうかしてるって思ってた。守島くんみたいに、思ったようにやってみたい時期があった。でもね、そうなると誰かが自分の代わりに責任を取ることになるでしょ。それじゃあ正義にはならない」
「はい、真木警部補」
「守島くん、明日、そのスポーツ組織と報道各局が癒着していた証拠をもっと集めてくれる?」
「えっ?いいんですか?」
「例えば、金銭の流れがあったかどうか分かる証拠とかね」
「はいっ、明日あたってみます」

守島は、思いがけない言葉に
「この国の正義もまんざら捨てたものじゃない」と心の中で呟いた。


「守島くん、ハロウィンの日 空いてる?」 
真木警部補が守島に尋ねた。
「えっ?捜査のお供ですか」
「違うわよ、鴨鍋のお礼に焼き鳥なんてどうかしら?」


このお話は架空のお話です🎬あしからず💦
事件は未解決ですが完結編🫢

渡邊さんへ
#⃣鴨鍋ハロウィンは応募が1作品までなのですが前編、後編扱いで一作品カウントにして頂いたりできますか?
字数的にはあわせて2000字程度です。