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【渡邊惺仁さん企画参加】或る男の嘆き❶

男は夕飯に寄った居酒屋のテレビを見ながらつぶやいた。
「この国の正義はどうかしてるぜ」
男の名前は、守島英治。警視庁捜査一課に勤務するエリートなのだが、今夜も一人、居酒屋の片隅で「一人鍋」をつついている。この店のオススメ「鴨鍋」である。鴨肉が意外にも柔らかくて癖になる。

守島が気にいらないのは、あるスポーツ組織でこれまで隠蔽に隠蔽を重ねて隠し通してきた性暴力事件だ。これまで報道各社は、そのスポーツ組織の裏にある或る権威に忖度をして「知らぬ、存ぜぬ」を押し通してきたというのに、風向きが変わった途端にこれだ。今度は、スポーツ組織の裏の権威に矛先を向けるのではなく、何の罪もないスポーツ選手に刃を向けている。

「この国の正義は誤っている。権威さえ守っておけばいいのだと勘違いしている。甚だ、不愉快だ」
守島は、自分の職業を利用して、その隠蔽してきた各報道局が裏の権威と癒着していたという証拠を掴んでいた。そして今、一人で「その不気味な権力への依存体質」と闘おうとしている。

守島が秘密裏に手に入れたのは、報道各社の内部資料で、それらの一件については一切オフレコにしろと指示が書かれているものだ。

第三者である自分にこの情報を暴露されるよりも、各局が自主的に「自分たちがこれまで隠蔽してきたことを認め、謝罪をし、体質改善を約束する」方が建設的ではないか?という提案である。

守島は、鴨鍋をつつきながら、ふと思った。
「俺が今、やろうとしていることは正義なのか? それとも脅迫か?」
守島は、憂鬱な気持ちになった。

自宅に帰ると守島は、送付する準備をした。
内部文書のコピーとメッセージカードを封筒に入れた。
カードには一言記した。
「trick or treat」
(この件を扱わないと、いたずらするぞ)


このお話は架空のお話です🎬あしからず💦
刑事ドラマ好き🫢