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Classic:鎌倉

江ノ電「由比ヶ浜駅」から徒歩7分の「鎌倉文学館」は、旧前田侯爵家別邸で、焼失や関東大震災での倒壊を経て、今の洋館になったのは昭和11年(1936年)らしい。すでに80年以上が経過している。

石造りの門に暖炉、赤い絨毯、大理石、ステンドグラス、バラの庭園には裸婦の屋外彫刻があり、ほとんど洋風なのに、瓦屋根でできている独特のデザイン。私は、このタイプの、古い和洋ミックス建築が大好きなのだ。

白熱灯で薄暗く重厚感のある部屋から窓の外を眺めると、広々とした庭園の奥に湘南の海が見える。さすが、加賀百万石の藩主だったお家の別荘は、優雅だなと思う。

訪れたとき、この近くに住んでいた川端康成の特別展が開催されていた。ノーベル賞授賞記念講演「美しい日本の私」の原稿コピーがある。

「雪月花の時、最も君を思う」(白居易)

雪の美しいのを見るにつけ、月の美しいのを見るにつけ、つまり四季折り折りの美に、自分が触れ、目覚めるとき、美にめぐり合う幸いを得たときには、親しい友が切に思われ、この喜びを共にしたいと願う、つまり、美の感動が人なつかしい思いやりを強く誘い出すのです。

あぁ、今読んでも、変わらない。すっと頭に入って、自分の目の前に大きな空間が広がるカンジがする。

文豪と呼ばれる作家好きになったのは、中学3年の時に国語の先生が教えてくれた、川端康成の短編集「掌の小説」がきっかけだった。

当時の私には文章自体がちょっと古いせいか、どこか角があるカンジがしたけど、情景というか、小説の中の空気みたいなものが、目の前に、深くクリアに浮かぶのが好きだった。深い海や、巨大な森の中を、異常な視力の良さで観察しているみたいな感覚になって面白かった。

それから、周りとコミュニケーションが上手くいかず、毎日がまったく面白くないと思っていた田舎の高校生時代に、芥川、鴎外、太宰、三島、谷崎などを、毎晩ニヤニヤしながらめくっていた。ちょっと古くて有名な作家の世界は、自分を賢く、特別な存在にしてくれるような気もした。完全に現実逃避の場にしていたと思う。

大学生になって少しずつ他のことに興味が移ると、いつの間にか読まなくなっていた。もうずいぶん長い間触れていなかったけど、でも、今読んでもいいなぁ。

高級品は、やっぱりいい。なつかしく、いろんな人の顔を思い出させてくれる。

※文学館に向かう途中の、「鎌倉ものがたり」っぽいトンネル。鎌倉は、魔物や妖怪がいつ現れてもおかしくないんだという説得力がすごくて、楽しくなった。

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