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【短編】 パン屋と釣り師とキャンピングカー ②

「実は、釣りと平行してキャンプの動画もあげようかな、と思っていたんです」
「あ、そうなんですね!良いじゃないですか、キャンプ」
「もうキャンピングカーも買ってしまいまして」え?  すごいな。
松本は驚いたが、動揺していないフリをした。
「買っちゃったんですか。それはすごい行動力ですねー、高いでしょ、キャンピングカー?」
「はい。流行ってるし。再生回数伸びるかな、と。で、今松本さんキャンプやられると聞いて、思い付いちゃったんです、今度、撮影を手伝ってもらえませんか?」

なんと。そう来たか。
「あたし、撮影で乗ってる車は軽自動車なんです。いきなりおっきいキャンピングカーは運転出来るか不安で・・バカですよね、乗れるかどうかも分からないのに買っちゃうなんて笑」
「いいですよ。僕が運転します」

2週間後。
松本の運転で、二人は海が近く設備も充実していると最近評判のキャンプ場を訪れていた。
ゆっこさんこだわりの絶好釣ポイントへは徒歩5分。
釣りの動画も撮れ高オッケー。その後は「初めてのキャンプ」の動画だ。
今回購入したキャンピングカーの紹介、テントサイトの選び方、焚き火、調理、くつろぐ空間の作り方など、盛りだくさんの内容を数回に分けて撮影することになった。
「松本さんさすがです!手際良いし、ごはんメチャメチャ美味しい!!」
「ま、キャンプ歴は長いですから。今度は釣った魚をキャンプで調理、なんて動画も撮れますね」
「それ良い!絶対やる!」

偶然、となりのサイトのお客さんもゆっこさんの動画のファンだったので、一緒に夜のキャンプを楽しむことになった。
「あの、もしかしてゆっこさんの彼氏さんですか?」
突拍子もない質問に松本は飲みかけたビールを吹いてしまった。
「いやいや、あの、そんなんではありません。全く。はい」
慌てて否定する松本だったが、その横でゆっこさんが少しだけ寂しそうな表情をしたのを、気付く由もなかった。
「あたし、テントで寝ますから。松本さんキャンピングカーどうぞ」
ごまかすかのようにゆっこさんはそう言ってさっさとテントに潜ってしまった。

快適なキャンピングカーで休んだ翌朝。ゆっこさんからもらった朝食は、まさかの自分の店のパンだった。
「いつも夕方にたくさん買う理由、分かりました?」
「遠方の動画撮影で泊まりの時に、朝ごはんにしてたんですね」

図らずも、松本は自分の店のパンが翌日の朝冷めていても美味しいかどうかを試す事が出来た。ゆっこさんが必ず買ってくれるピーナッツバターコッペパンはちょっと改良した方が良さそうだ。

「松本さん。今回は本当にありがとうございました! で、あの、もし可能でしたら、また・・」
「ええ。もちろんご一緒しますよ。釣りをもっと教えてもらいたいし」
「良かった。キャンピングカーの扱い方とか、まだあたし一人じゃ出来なくて」

お互いに本当は、また一緒に行きたいのはそんな理由などではない事は気付いていた。

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