【短編 七十二候】 東風解凍(はるかぜこおりをとく)
昨夜遅い時間まではしゃいでいた娘は、案の定目覚ましが鳴っても起きてこない。
部屋のカーテンを開け、朝日が差し込む。今日から暦の上では「春」らしいが、昨日までと今日の何が違うのかは体感としては分からない。
そんな事を考えていると娘が起きてきた。同時に足の裏に小さいものを踏んだ感触。
「おはようパパ。ねえ、昨日のお豆、まだある?あたし食べたい」
「もうないよ、理乃。昨日豆まきしたあと、パパと理乃で全部食べちゃったじゃないか」
しがない中間管理職の石川孝志は、小学校3年生にな