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No Trespassing

庭を、悠々と 知らない男性が歩いて横切っていた。

文学なら「昔住んでいた家の前を通ったらもう次に住んでいる誰かがいたのかな」とかになる。でもこれは今の我が家の話だ。平日の昼間の午後3時半くらいのことだ。

だれだ、あんた。

そう思いながら全身が硬直した。
ここはアメリカだ。なにがおこるか、本当にわからない。
ほんの1〜2秒、頭の中も身体もまさにフリーズしていたが、すぐにケータイを後ろポケットに突っ込みポーチに出て、何を思ったか私は水まき用に使うホースを掴んでその男のいなくなった方へ走った。(いざというとき水でもかけてひるませて逃げようとしたのか。ほんと、訳がわからない)
もうその人はどこかへ行っていって、私の手だけが小さく震えている。

確かにうちは、フロントヤード(前庭)とバックヤードがつながっている。
とくに家の北側、ドライブウェイと繋がるところは、芝刈り機を出し入れしたりゴミ箱の置き場+出し入れ経路になるのでフェンスも設けていない。
だけど普通は知らない人間が、そこに停めてある車のよこを通って、他人のプライベート空間になるバックヤードに入ってはこない。

コロナ禍で芝の薬を撒く業者とかペストコントロールの業者がバックヤードに入るときにドアベルを鳴らさないことが増えた。でも事前にテキストと録音メッセージでだが「○月△日午後に芝の手入れにいきます」というお知らせがくる。心の準備、ってやつだ。

でも昨日のひとは全く理由が分からなかった。だからもの凄く怖かった。家の中から声をかけようとも思ったが、相手が銃をむけないと誰が言えようか。フリーズした数秒はまさに、そんなことを考えたからだ。

私の住む町は全米でも犯罪が少なく安全で知られるところではある。
特に「自宅」はかなり安全なところ、と認識するのは誰でもそうではないかな。

でも完全に誰でも信用するのは間違っている。
ふと、数年前に自宅の庭に迷い込んだ猫に銃をぶっ放した近隣の家の噂が蘇った。猫に銃をむけるのはやっぱりアタマオカシイと思うけれど、家に銃を置きたいと思うのはちょっとだけ理解出来てしまった。

子供が家を出て、あれこれ家の修理の時期だなと思っているけれど、「フロント・バックヤードの間にフェンスをつける」もリストに加えて置いた方が良いのかもしれない。 あー怖かった。

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