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ヒートウェイヴ ① 『柱』 1990

ヒートウェイヴ『』(1990/10/01)
Epic/Sony Records:ESCB 1098
レコーディング:福岡PHONIC(日付不明)

①POWER[力]
②ライオン
③僕は僕のうたを歌おう
④ハッピー バースデイ トゥ ユゥ
⑤36°5
⑥何よりも僕らしく、何よりも君らしく
⑦幼い日
⑧HEY MY FRIEND/DON'T DIE YOUNG
⑨らっぱ
⑩千の夜

1990年10月1日に「びくともしない。」というコピーとともにエピックソニーからリリースされた、ヒートウェイヴのメジャーデビューアルバム。アマチュア時代からたくさんのオファーがあったようだけど、ヒートウェイヴは同世代のバンドにくらべるとデビューはやや遅い。

よく言われるように、デビュー盤にはそのミュージシャンのすべてが詰まっている。そして、デビュー盤はインディー時代のベストアルバムだと友人は言ったが、そのとおりだろう。まさにヒートウェイヴのすべてが詰まっているアルバムだと思う。

トリオ(=3人)という編成でありながら、しかも、アコースティックギターを多用しつつも、音は太く、猛々しい。レコーディングはあえて故郷・福岡のスタジオでなされた。みんなで試行錯誤しながら録音したということだけど、山口洋が「このアルバムはほんといい音で録れてる」とことあるごとに言うとおり、たしかに音は抜けてるし、すごくいい。前年1989年リリースのインディー盤『歳月の記録』も名盤だけど、その流れを汲んだ上でさらにパワーアップしているし、あの〈バンドブーム〉のなかで、ほかのバンドとの差異を明確に叩きつけている。

山口洋の咆哮とともにエレキギターもうなりをあげる①(クラビネットも効いてる!)。ひりひりするような疾走感の②。ヒートウェイヴの特長のひとつである裏のリズムが印象的な、デビューシングルにもなった③(シングルに選んだのはマネージャーも兼務していた当時の事務所の社長。ベスト盤『LONG LONG WAY』では曲の終りがフェイドアウトされてていただけない)。ここまでまさに、あいさつ代わりの①〜③の破壊力! さながらロックオペラのような④。イントロから本編への転調が見事な⑤。耳馴染みのいい軽快な⑥。酔っ払って歌ったという山口洋の弾き語り⑦(最後の「サンキュー」もいい)、ブリティッシュロック的な、当時はあまり見られなかった斬新なサウンドの⑧、2分に満たないながらも強烈な印象を残す⑨。そして、山口洋のピアノがやわらかな、アルバムを締めくくるにふさわしい⑩。

山口洋のヴォーカルとギターが素晴らしいのはもちろんだけど、リズム隊のふたりがすごくいい。藤原慶彦のドラムはどっしりとしていて、まさに「びくともしない」。そして、渡辺圭一のベースは、ヒートウェイヴがヒートウェイヴであるためのキモであったんだと、あらためて思う。ルー・リードのバンドで長くやっていたフェルナンド・ソーンダースを思わせる太くてブイブイと鳴るベースの心地いいこと!

ヒートウェイヴとの出会いは1987年末の〈ロックンロール・バンドスタンドin福岡〉だけど、ほとんど記憶にない。その一年後、1988年末には岡山での〈バンドスタンド〉に登場。「6,000人の客席をシーンとさせた」と山口洋。ま、たしかにそうだったんだけど(笑)、まだデビューしてもいないバンドがブルーハーツやスライダーズやエコーズに混ざっていたんだからしかたないことだろう。

その後は雑誌で記事を見かけるくらいだったんだけど、『柱』のツアーで岡山にやってくることを知って、大学の友人を誘ってライヴを見に行った。1990年10月2日、岡山・ペパーランド。『柱』のリリースの翌日のことだった。当時はそれほど情報がなく、山口洋は栄養失調で歯がかけた(「歯欠けの僕が吹くらっぱ」)だの、客をにらみつけながら歌うだの、すごくおそろしいイメージを持っていた。だけど、ちょうどリハーサルが終わったくらいだったんだろう、ライヴハウスの前を通ってみたら、山口洋と渡辺圭一がキャッチボールをしてて、なんだかすごくほっこりとした。

ライヴは(その後山口洋が何度も言うように)お客さんは17人しか入らなかったけど、まさに〈熱波〉だった。自分たちの〈音〉を届けるんだという思いがじゅうぶんに伝わってきた。終演後、機材を撤収し、車に積んでいる山口洋におそるおそる声をかけると、すごく気さくに話をしてくれて、どこかでもらったという梨をひとつくれた。

── あれから32年という歳月が流れたけど、いまだにこのアルバムは、なんとも言えないグッとくる気持ちにさせてくれる。あの日のペパーランドの〈熱波〉を思い出させてくれる。背筋が伸びる。ヒートウェイヴはその後いろいろと変化したけど、原点はここにあるし、それはぶれてはいないと思っている。

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