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普通の夫は私達を救うだろう

息子が高機能自閉症(アスペルガー症候群)の疑いがあることを夫に話した。

夫は“変わり者になりたいごく普通の人”なので、息子の特異な部分を知り
「きっと…俺の遺伝だよね…」
と呟いた。
夫の上にスポットライトが見える。

こうゆう時、私は特に否定をしない。
間違って「いやいや!あなた!全然普通だから!」なんて言った日には生活費貰えないかもしれない。
そんなリスクを背負うわけにはいかないので、深刻そうな顔だけして聞き流す。

私から言わせていただけるなら、正直息子の特異な部分はずっと前からだしどこで相談しても「大丈夫!」と根拠のない太鼓判を押され続けてきた。
どんなに手を尽くしてもどうにもならない息子の状況に夫は「やればできる」とティモンディなポジティブ思考で突き通してきたのだ。
やってんだよ。やってるから辛いんだよ。
それをどんなに伝えようと思っても「俺は甘やかさない!」と息子に厳しい言葉を投げかけ続けた。
最後は物を買って釣ろうとした。
それでもどうにもならないと「俺、仕事忙しいから」とサラリ逃げる始末。
そして、ここにきて特異な部分を知り「オレモ…」

ついこないだまでの言動は何だったんだ?

私の本音としては、息子が他の子と同じように普通の道を歩んでくれたならどんなにいいか。
息子の将来に期待を膨らませて、当たり前の反抗期や彼女連れてきてどーのこーので悩みたかった。
息子の未来どころか明日学校に行くことさえ悩むこの毎日がなかったらどんなに幸せだっただろう。

しかし、息子はどこまで行っても私の大事な我が子であって、息子が悩み苦しんでいるとしたら取り払ってあげたい。
遺伝だとか考えている暇はないのだ。

アスペルガー症候群で検索すると様々な有名人が出てくる。
アーティスティックで変わり者。
夫が憧れる要素が満載である。
しかし、偉大な人達だって沢山の生きづらさの中で自分の才能を枯らすことなく育ててきたのだ。
“ギフテッド”という言葉も有名になってきたけれど、特異な才能を開花させるための努力は並大抵ではない。

アスペルガー症候群であり高機能自閉症をカミングアウトした米津玄師が言った言葉が胸に刺さる。

僕はずっと普通の人になりたかったんですよ、子どもの頃から。普通ではないっていう感覚によって苦しい思いをしてきた自覚もあって

普通じゃないと言われることの苦しさは普通に生きる人間には分からない。
苦しいけどどうすることもできない自分の特性に悩みながら生きている人たちに「でも才能があるじゃない」と言うのは残酷なんじゃないかと思った。
 
才能はいらないから、この世界で心地良く生きていきたい。
その願いは切実で、理解したくてもできないものだ。
 
だから私は夫が普通の人でいいと思う。

日々私とは全く違う世界観で生きている息子と一緒にいると切なくて寂しい時がある。
夫の話を聞くたびに、自分の知っている世界がそこにあって置き去りにされていないことを実感して安堵する。

「普通に生きているアナタはとても素敵で素晴らしいと思うよ」といつも思う。
口が裂けても言えないけど。
 
知らなくてもいいことは沢山ある。
夫は知らないからその世界に憧れて、自分なりに作り出しているのだろう。
そうゆう夫も嫌いじゃない。
だって最後は普通の人として当たり前の答えを持っているから。

夫は私を引き戻してくれる存在だ。
 
身近に特異な人がいることを認識した夫は、息子がどう考えどう行動するのかを最近よく観察している。
きっと自分に似た部分を探しているのだと思うけれど、そんな夫を観察しながら「やっぱりこの人は普通だな」と感心するのだ。
 
息子のことで不安や悩みは日々増えていくけれど、夫がキラキラした目で息子を追っているのを見ていると、心底この人と結婚して、一緒に息子の親になれてよかったなと思う。

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