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夫が平野紫耀になった日

これは自己肯定感が高すぎる夫がトップアイドルになりかけた話と、その夫によって自分の生き方を見出せた妻の話である。

テレビでKing & Princeの平野紫耀くんが
『炭酸飲料を飲むと声が変わる』
という話が番組で放送されて、ファンの間で話題になった。
どうゆうことかというと、炭酸飲料を飲むとヘリウムガスを吸った時のような声になるというもの。宇宙人っぽい声だと分かりやすいかも。

イケメンで天然ボケで、変な声にもなる平野くん。抜け目ないな。

その番組を私と一緒に見ていた夫。
平野くんの声が変わった場面でいきなり話し出した。

「え?みんな声、変わるんじゃないの?」

その目は真っ直ぐで、ハッタリを言っているようには見えない。
いきなりの発言に、え…この人、何言ってるの?となった。

「もしかして、声変わるの?」
恐る恐る聞いてみると、夫は自信満々で
「うん!なるよ!いつもはそうならないように対策してるからねっ!」
と言う。
夫いわく、炭酸飲料を飲むことで喉の辺りに空気が溜まって喉が締まるような感覚になって声が変わるらしい。
夫は強制的にその空気を外に出して対策をしているとのこと。

自分の体質がトップアイドルと一緒だったと知って嬉しくなった夫は
「そうかー!平野くんもだったかー!みんなそうだと思ってたのに!平野くんと俺だけかー!」
と饒舌。
いや、2人だけじゃないでしょ。と思ったけれど、妻は空気を読んだ。

「すごいね!!もう平野くんじゃん!!」

ここで大切なのは、夫が平野くんに似ているとか似ていないとかではない。
夫が何を思って、今妻に何と言ってもらいたいかに集中した。

「いやいや!体質が似てるってだけだからねー!」
答えの内容に反して非常に嬉しそうな夫。
しかもいきなり後ろ髪を掻き上げるような仕草を見せる。これは平野くんがよくやる仕草である。

「体型も似てるんじゃない?癖も一緒じゃん!」
自分の発言への恥ずかしさを通り越して完全にノっていく。
「え?そうなの?癖なんだよねー」
夫、絶対に否定しない。
それが癖だと申すならこの日初めて見た私は今まで夫の何を見て生きてきたんだろう。

その後も、普段そのままでは飲まない無糖の炭酸水(ハイボール用)を飲んで
「ほら!変わった!」
と何度も声が変わるのを見せてくれた。
拍手する私は心の中で
「アレは平野くんがやるからいいのであって、夫がやっても“ただ変な声のオジサン“なんだなぁ」
と冷ややかである。

この出来事をキッカケに、夫は平野くんファンになった。
平野くん主演のドラマ『クロサギ』を欠かさず見て、過去の話も配信でバッチリチェック。
平野くんを褒めながら「俺もこうゆうことするよ」と自分と平野くんの共通点をちょいちょい出してくる。
その姿は自信に満ち溢れて、全然恥ずかしくない様子。

とにかく自分に自信があって、自分がカッコイイということを認識するのが大好きな夫。
“俺は平野紫耀レベルだ“と自分で思っているから、妻の褒め言葉も確認作業にすぎない。

その自己肯定感の高さは、日々の言動でも感じることができる。

夫は「自分の身に起きた嫌なことは全部他人のせい」な人で、自分は正しい。間違っているのは周りの人間だと自信満々に言う。
んなわけないだろって思うけど、この思考だけは何があってもブレない。

私は夫と比べたら、自己肯定感は低いと思っている。
自分の身に降りかかる不具合は「私が悪いんだ」と思いがちだ。

そんな私を一度だけ夫が褒めてくれたことがあった。

それは“人を褒めるのがうまい“というもの。
「人の良い所を見つけて、それを的確に褒めるのが上手だよね」と言ってくれた。

昔から相手の素敵な所を伝えることで、その人が嬉しくなって、その場の空気が穏やかになることが嬉しかった。

自分の良い所は見つけられなくて、自信もなく生きてきた私に、夫は長所を教えてくれたのだ。

当の本人はすっかりこのことを忘れていて、今や何を言っても大体「それはさ、お前が全部悪いじゃん」って言う。
この人は“もう二度と妻を褒めない呪い“にでもかかっているのだろうか。

例え夫が覚えていないとしても、夫が見つけてくれたこの長所は私が人付き合いをしていく上での基盤になった。
そして、夫と暮らしていく上でもとても重宝している。

目の前の夫が機嫌良く幸せになってくれるなら、トップアイドルにだって仕上げてみせよう。


『エッセイのまち自治会』による投稿企画に参加させて頂き、このエッセイを書かせて頂きました。
まだまだ未熟者の私に、12月から今日の公開まで相談に乗って頂き、沢山のアドバイスをくださった管理人のともきちさんに心から感謝申し上げます。

いただいたサポートはみなさんによりときめくエッセイを届けるため、作業机周辺に配置するときめきアイテム(主にコーヒーとお菓子)購入代にさせていただいております! もっとみなさんに楽しんでいただけるエッセイを目指していきます。ありがとうございます♡