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不出来な母の長い独り言

息子と大喧嘩をした。

自分が好きなことをしている途中で宿題をしてと言われ、怒り出す息子。
なかなか取り掛かれず「じゃあやらなくていいよ」と言っても「イヤダ」と答える。
1階の台所では80歳を過ぎた祖母が何やら大声で話していた。

分かっている。

息子が出来ないことがあって、生きづらいと思っていることも
祖母が年を取って自由が利かなくなっていることに戸惑っていることも

全部分かっている。
分かっているのに…私は息子を叱った。

「どうしてできないの?!そこに座ってても何にもならないでしょ!!」

冷静な私が今の私を見ていたら「そんなに言わなくても」って言うだろう

息子はいよいよ泣き出してどうにもならなくなった。
私は、更にどうにもならなくなった。

「僕なんかいらないんでしょ!!」と言う息子に、今まで”母親だから”と抑え込んできた気持ちが爆発する。

「母ちゃん、君と一緒に生きていくために色んなことを我慢してきたんだよ。君が大変なのは分かってる。でも、そんな風に言わないでよ」

最低だ。我慢しているなんて子供に言うなんて。

息子が生きづらそうだと感じた時、私は猛烈に後悔した。
何がいけなかったのか、もしかしたらあれがいけなかったかもしれない。
そんなことをグルグル考えては涙さえ出なかった。

息子には、もっと明るい未来があったんだ。
私の子供で、私が息子を生きづらい子に作ってしまったんだ。
私が、息子の未来を壊してしまった。

それから私は、息子が大変なことは全部カバーしたいと思って毎日を過ごしてきた。
息子同い年の子達が、友達と楽しそうに歩く姿を見るとどうしようもない絶望感が襲う。
息子は、こんな風に人から気持ちを通わせてもらえるのだろうか。
私の隣で恐竜の知識を延々と話す息子を見て、猛烈な悲しさが込み上げてきた。

何とかしなくてはいけない。
どんなに生きづらいことがあったとしても、できるだけ人と関わっていかなければ。
息子が、私亡きあと悲しい思いをしないように。

そんな気持ちが、いつしか「我慢してる」になった。
少しずつ、少しずつ、膨らんでいく心の中の風船が、バーンッて割れて、溜まっていた気持ちがザザーッと溢れて…
目の前で泣いている息子に、こんな私が言えたのは

「君の母ちゃんになったことを悲しいと思ってはいないよ。でも、君がこんなに辛いのは、母ちゃんのせいだって思ってる」

私が渾身の胸の内を明かした時、息子は

「さっきね、僕が言ったこと、ちょっと違ったよねぇ」

と笑った。
どうやら私が怒っていることは分かっていたけれど、話の意味をよく分かっていなかったようだ。
「出てく!」と自分が言ったから「わかった!」と私が言ったし、自分は出ていく気なんぞさらさらなくて、しかも自分が言った言葉がトンチンカンだったと思っていたらしい。
全然、トンチンカンじゃなかったんだけどね。

私はずっと不出来な母親だと思っている。
気の利いた子育てとは無縁で、優しい母になりたくてもどこかでボロが出てしまう。

そんな私に、神様はこの愛おしいトンチンカンな息子を授けてくれたのかもしれない。
私が不出来で、どうしようもない母親だということを息子は全部受け入れていた。
そして、感情のぶつけ合いすら受け入れてくれる。

生まれたばかりで飲んでは寝てを繰り返す息子の姿を見ながら、彼が成長して、私からどんどん離れていく姿を想像して、寂しいような嬉しい気持ちになっていた。
想像していた未来とは違う今がここにある。

息子の将来を考えた時、不安な気持ちや悲しい気持ちはまだなくなっていない。
いつだって息子に対して後悔と申し訳なさが先に出てくる。
もしかしたら、私は自分が死ぬ間際までこの気持ちのままかもしれない。

来週、息子の検査結果が出ることになっている。
今普通学級でマルチタスクの極みを過ごす息子にとって、苦しみを取り除いてあげられるかもしれない。
そして、私はまた悲しくなるかもしれない。

不出来な私を、息子が受け入れてくれるうちに、もう少し息子の今との向き合い方を見直してみたいと思った。
また振出しに戻ろう。よく観察して、今の自分のキャパと照らし合わせる。

身の丈に合わない子育てはしない。
ただ、どうしようもない負の気持ちはどこかでいい感じに消化する方法を見つけたいな。
色々親としての理想はあるけれど、今は「まず、笑っとく」を目標にしよう。

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