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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地

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アールダの時代から二百年後を描くアルデガンシリーズの本編。ラストとなる第3部ではついに城塞都市の崩壊の顛末が語られます。
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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第1章

<第1章:国境>

 アザリアは東の王国イーリアから南の大国レドラスへ入る国境までやってきた。

 アルデガンを旅立ってから二ヶ月になろうとしていた。最初に北の王国ノールドに立ち寄り宝玉やレドラスに関する情報を交換し、次いでイーリアの宰相とも面会し、許可を得て宝玉を失った東の塔の現状を調べたところだった。アルデガンはその場所こそ北の国ノールドの領内にあるが、エルリア大陸全土に分布していた魔物の掃討

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第2章

<第2章:洞窟下層>

 暗闇の中で、大きな飛竜と華奢な少女が向きあっていた。

 その大きさからも姿からも本来洞窟にいるのがふさわしくない飛竜は苛立っていた。その心の動きがリアには手に取るように読み取れた。洞窟の中では広げることもできない翼を思い切り伸ばし天翔けるイメージとして受け取った。

「それが望みなの?」

 応えは言葉でこそなかったが、明らかに肯定の念だった。

 リアは心を鎮めてみた

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第3章

<第3章:レドラス>

 アザリアを乗せた馬車がレドラスの王城ドルンに到着したのは午後になってからだった。

 巨大な城だった。しかもまだ築かれて年数が浅いようだった。高さはさほどなく尖塔の類いも少ないが、巨大な切り株のような平たい形状からすれば屋上には巨大な空間を確保しているように見えた。見るからに奇妙な作りだった。

 王城はただならぬ雰囲気につつまれていた。武装した軍隊が城門から北へ続く街道

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第4章

<第4章:最下層>

 リアが辿り着いたのはこれまでの中で最大の空洞だった。幅や奥行きもさることながら高さがずばぬけて高く、噴煙でけぶっているため天井の様子が見て取れないほどだった。

 ここには人の手による加工はおろか、不思議な力による環境の変化も見て取れなかった。ゴルツがいったとおり、小さいながら火山としての特徴をすべて備えた火山が炎を上げていた。天井までの高さの約半分の高さにある火口から天井

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第5章

<第5章:王城>

 アザリアはレドラス王ミゲルに続き、近衛兵に両脇を挟まれたまま長い階段を登りきった。侍従が重い扉を開けた。

 太陽の光がまともにアザリアの目を射ぬき一瞬なにも見えなくなった。風が吹き込むと同時に異様なわめき声が聞こえた。

 扉の外は屋上だった。アザリアは息をのんだ。

 巨大な円形の広場だった。壁から屋根が張り出していたが壁の周囲の一部だけであり、広場の大部分は屋根がなく空

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第6章

<第6章:地下火山>

>かの者の力はあまりにも強大だった<

 金色に輝く人面の竜のごとき魔物の思念が告げた。

>もともとは怪物の餌食になる仲間を救いたい一心で戦いを始めたといっていた。だがその力は自身の予想を超えて強大だった。気がつけば広大な土地に棲みついていた幾多の怪物をほとんど己の力一つで討伐し、わずかな生き残りをこの地へと追い込んでいたという。

 周りの人間たちはかの者が怪物を滅ぼす

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第7章

<第7章:洞門前>

 リアが洞門に辿りついた時、空は燃えるような朱に染めあげられていた。

 夕日がちょうど沈むところだった。岩山と城壁に囲まれた砂地には影が落ちていたが、城壁は沈む夕日を照り返していた。

 暗闇の中で転化したラルダに比べ、リアは転化の過程で光を浴びる時間が長かったので少しは光への耐性が高かった。それでも沈む夕日の照り返しでさえ烙印を押すような苦痛で身を苛んだ。まるで自分が人間

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第8章

<第8章:屋上>

 アザリアが意識を取り戻したとき、あたりは宵闇に閉ざされていた。起こそうとした上体が折れたあばらの激痛に崩れた。一瞬振り仰いだ目がかろうじて夜空の様子を捉えた。

 西と北の二箇所に赤い残照が映えていた。

 天空から去った二つの太陽の名残だった。

 北の赤黒い残照にアザリアは目を向けた。

 あれはアルデガンめざす火の玉が天空を焦がすのか。

 それとも燃えるアルデガンの炎

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第9章 その1

<第9章:アルデガン その1>

 叫び訴えるリアと解呪しようとするゴルツの様子にアラードは何かがおかしいと感じた。ラルダのときと違う!

 彼はグロスを見た。グロスもアラードを見た。その顔が蒼白になっていた。

「解呪の技が正常に発動していない。魂に向かうべき力がそれていたずらに肉体を苛んでいる。閣下の御心は危うい……」

「やはり!」

 アラードは地に伏すリアの側にかけ寄った。

 見るも無

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第9章 その2

<第9章:アルデガン その2>

 アラードたち三人はラーダ寺院を目指した。だが走るのが遅いグロスは遅れ、アラードとリアは二人で尖塔の螺旋階段を一気に駆け上がった。

 リアが先に宝玉の間に着いた。しかし彼女は部屋に一歩入ったところで立ちすくんだ。アラードは危うくぶつかりそうになりながら、なんとか脇をすりぬけて中に踏み込んだ。

 部屋の中はめちゃめちゃだった、屋根も扉も吹き飛ばされ崩れた石組みが

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第9章 その3

<第9章:アルデガン その3>

「リア……」アラードは呻いた。二、三歩前に歩み出た。だが、塔の上でのあの恐怖がよみがえり、その歩みを押しとどめた。

 そのとき、翼持つ守護者の思念が呼びかけた。

>汝、人間の姿と心を持つ者よ。なぜ歩み寄る?<

 アラードは守護者を見上げた。遠目には竜のように見えただけだったが、間近に見ると頭部がまったく違った。いくらか人間に似ていなくもない細い顔を取り巻く無

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第10章

<第10章:野営地>

 レドラス軍は火の球がノールドの国境を越えたのにやや遅れて攻め込んだ。

 砦の軍勢は低空をかすめる巨大な火の球の飛来に浮き足だち、レドラス軍の侵攻に組織的な対処ができなかった。たちまち砦は陥落しレドラス軍によって火をかけられた。

 レドラス王ミゲルは恐怖で敵の抵抗を挫くため、敵兵や領民の虐殺を命じていた。異民族の数をできるだけ減らし空の火の球と地上の軍の恐ろしさで反抗の

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第11章 その1

<第11章:エピローグ その1>

 三日間にわたって燃え盛った炎がようやく下火になったとき、アルデガンは変わり果てていた。

 結界の源だった宝玉を収めたラーダ寺院の尖塔は崩れ、魔物を封じていた岩山は完全に姿を消していた。炎が振り注いだ城壁や建物にはいまだに燃えているものも煙を立ち登らせているものもあった。結界を失い魔物が解き放たれたアルデガンはもはや封魔の城塞ではなかった。こじ開けられ焼け焦げ

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『封魔の城塞アルデガン』 第3部:燃え上がる大地 第11章 その2

<第11章:エピローグ その2>

「前にいっただろう? 私自身が解呪の技を発動できずにいるのだと」

 グロスはアラードをまじまじと見つめた。

 ラーダ寺院の地下にある霊廟だった。グロスはこの三日間ここに篭り続けゴルツやアザリアをはじめとする犠牲者たちに祈りを捧げていた。やつれた印象だった。疲れもあるのだろうがどこかうつろで覇気が感じられなかった。

「術式を身につけておられる方はもうあなたし

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