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5月3日発表の米雇用統計を解説


雇用統計の発表と市場反応

 2024年5月3日、アメリカの雇用統計が発表されました。最近、FRBの利下げが遠のくという展開が続いており、強い結果が出ることを警戒する人々が多かった中、予想よりも弱い結果が出たことから、マーケットでは金利が低下し、ドルが下落する展開となりました。

雇用統計の詳細

 今回の結果をどう受け止めるべきか、そしてアメリカ経済についてどのように考えるべきかについて、詳しく解説します。まず、雇用統計の結果を振り返ります。
 非農業部門の雇用者数は17.5万人の増加となりました。前月の+30.3万人を下回り、予想の+24万人も下回りました。
 失業率については3.9%になりました。前月の3.8%から悪化し、予想の3.8%からも悪化しました。
 平均時給については+3.9%となり、前月の+4.1%を下回り、予想の+4.1%も下回りました。
 これらの結果から、今回の雇用統計は総じて予想を下回り弱い結果だったと言えます。

雇用統計の深堀り(パートタイマーの数について)

 更に詳しく雇用統計を見ていきます。初心者の方にも分かりやすいように、なるべく優しい言葉で説明します。
 まず、失業率については3.9%となり、予想よりも高かったですが、2023年の8月以降はずっと3.7%から3.9%の間で推移してきました。このレンジを上回ることはなかったので、長期的に見ると大きな動きはなかったと言えます。
 一方、注目すべきはパートタイマーの数です。日本でも、非正規雇用よりも正社員の方が安定しているので、正社員になりたいという人が多いと思いますが、アメリカも同じで、パートタイマーよりもフルタイムでの仕事を望んでいる人たちがいます。雇用統計で雇用者の数が増えていても、パートタイマーばかりが増えていると、決して強いとは言えません。そういう意味で、パートタイマーのデータが注目されます。
 この雇用統計では、パートタイマーのうち、経済的な理由でパートタイマーになっている人、つまり本当はフルタイムで働きたいのに、フルタイムの仕事につけなくて、仕方なくパートタイマーとしての仕事をしているという人の数が公表されています。これが今回446.9万人となり、3月から16.1万人増えています。つまり、フルタイムがあまり増えていなくて、パートタイマーばかりが増えている状態です。

 パートタイマーの数が増えていることについては、別の見方もあります。コロナパンデミックの後、在宅勤務が当たり前になり、パートタイマーで副業する人たちも増えています。企業側もパートタイマーを採用するケースが増えていると言われています。日本でもよくインターネットを見ていると、地方自治体のパートタイマーの求人広告が出ていたりします。それまでフルタイムの人に任せていた仕事をパートタイムの人に任せるような動きもあり、それがパートタイムを増やしているという見方もあります。これは世界中で起こっている動きだと言えます。
 そういう観点で言うと、労働者はパートタイムでも、以前よりもたくさんの仕事を持っている人たちもいて、以前と同じようにパートタイムが増えていることを一概に弱いとは見るべきではないという考え方もあります。また、AIの普及によって管理職がいらなくなっているということも影響しているという見方もあります。新たな変化が起こっているので、評価は非常に難しいところですが、こうした社会の変化があるということも含めて見ていく方がいいでしょう。

雇用統計の深堀り(労働参加率について)

 続いて、労働参加率についてです。これは16歳以上の人口のうち、労働力人口、つまり働いている人や働きたい人などの割合を示したものです。人口の中で働ける人がどれだけいるのかという指標です。今回62.7%となり、1年前の2023年4月が62.6%でしたので、横ばいになっています。
 ベビーブーマーと言われる、日本で言うところの団塊の世代、第二次世界大戦の後に生まれた人口のボリュームゾーンの人たち、この人たちがパンデミックの後、もう完全に引退して仕事に戻ってこなくなり、労働参加率が頭打ちになっていると言われています。
 移民の人たちはどんどん増えていますが、それでも労働参加率が頭打ちになっているということは、ベビーブーマー世代の引退の影響が大きいということです。もし今後、政権が変わって移民が減ったりするようなことがあると、アメリカの人手不足は一層強まる可能性があります。

私の考え

 人手不足は賃金上昇につながりやすい要因と言えます。しかし、実際には賃金はあまり上がっておらず、むしろ緩やかに上昇率が下がってきています。今回は予想を下回って3.9%になりました。これはなぜか、パートタイムの仕事が増えて、時給が安い仕事が増えているからです。一部には不法移民の不法就労が多く、それがパートタイマーなどの賃金を引き下げているという見方もあります。
 この辺りに、アメリカの労働市場が決して強いわけではないということが現れています。今回の雇用統計の結果が予想を下回ったことで、FRBの利下げ期待は少し復活するかもしれません。しかし、今回の一度の雇用統計でFRBの政策が大きく変わることはないと思われます。引き続きデータをよく見ていく必要があると思います。

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