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サウジアラムコの決算とサウジアラビア経済


サウジアラビア経済の現状

 サウジアラビア経済について、最近の動向を解説します。サウジアラビアという国は、お金を使いまくり、目立つプロジェクトを行い、注目を集めようとしています。しかし、実際のところ、財政状況は決して余裕があるわけではありません。最近、サウジアラビア経済についていくつか重要な情報が出てきていますので、アップデートをしてみたいと思います。

サウジアラムコの決算

 サウジアラビア経済の生命線と言えるサウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコの1~3月期の決算が出ています。

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 売上高は前年同期比で減少し、純利益も前年同期比で減少しました。原油を減産していますので、売上も利益も減少しているという状況が昨年から続いています。注目を集めたのが、売上も利益も減っている中で配当は310億ドルという高水準を維持したことです。今回の決算でフリーキャッシュフロー、つまり営業活動によるキャッシュフローから設備投資を差し引いたもので、企業が自由に使うことができる金額と言われますが、フリーキャッシュフローを上回る水準の配当を維持したといった状況になりました。

ビジョン2030とその資金調達

 なぜサウジアラムコが高水準の配当を維持しているかというと、これがいわゆる国を改革していくと言っているビジョン2030のために使うお金を確保するためです。
 サウジアラビアという国はこれまでに石油をたくさん売ってきて儲けてきたお金をたくさん溜め込んでいて、お金自体はたくさん持っている国です。しかし、国が成熟してくると他の先進国と同じように社会保障費などがたくさんかかるようになってきて、財政を圧迫する要因になっています。そのため、近年は財政収支が悪化する状況が続いていて、消費税のような付加価値税というものも導入しています。
 ビジョン2030という国を改革していく計画で1兆5,000億ドル、日本円で230兆以上も使うと言っています。こうした資金の調達として政府系ファンドの運用収益などを当てようとしています。
 その政府系ファンドのポートフォリオというのがどうなっているかと言いますと、サウジアラムコの株が大部分を占めています。サウジアラムコが配当を出さないと、このビジョン2030を実施していくお金がなくなってしまうということになります。

資金調達の現状

 サウジアラビア最大の政府系ファンド、パブリックインベストメントファンドの残高は2023年時点で7,000億ドルほどだとされています。そこから入ってくる収益だけで、累計でも1.5兆も賄うというのは現実的に不可能です。他からも投資をしてもらわないと、このビジョン2030というのは実現できないプロジェクトだと言えます。
 高さ500m、長さ170kmに及ぶビルを作る「The LINE(ザ・ライン)」というプロジェクトは、すでに計画が縮小されています。海外投資家がこんなプロジェクトにお金を出すはずがないので、プロジェクトは徐々に縮小されて、1.5兆ドルものプロジェクトにはならないでしょう。そして、4月にこのビジョン2030の中の「NEOM(ネオム)」の計画に使う資金を調達するために、近くサウジアラビアはリアル建ての債券を50億リアル、日本円で2,000億円程度発行するといったことも報道されています。
 このリアル建ての債権をスクーク債と言いますが、このスクーク債というのは、イスラムの考えに則ったイスラム金融に即して発行されるものです。おそらく、サウジ国内の機関投資家を中心に販売されるものと見られていますが、海外の機関投資家でもこのスクーク債に投資をしている人たちもいます。ということで、ネオム建設の資金調達を一生懸命やっているといった状況になっています。

原油価格の影響

 サウジアラビアについて、衝撃的だったもう一つのニュースは、サウジアラビアの財政が均衡するオイル価格、「Breakeven Oil Price(ブレイクイーブンオイルプライス)」と言いますが、この価格が96ドルほどに上がったとIMFが発表したことです。サウジアラビアという国は、石油自体は勝手に湧いてくるようなところもあり、採掘コストは非常に安価だとされているんですが、最近は国の社会保障費などが増えてきて、政府の財政収支が黒字になる原油価格の水準がどんどん上がってきています。この財政収支がプラスマイナスゼロになる水準をブレイクイーブンオイルプライスと言うのですが、これが2023年は81ドルほどでしたが、2024年に96ドルまで上がってきているとIMFが公表しました。

原油価格の上昇とその影響

 実際に原油価格が100ドル近くにもなると、世界経済に下押し圧力がかかりますので、100ドルまで上がることはよほど供給を絞らない限り難しく、それはサウジアラムコの売上の減少を意味するため、それも現実的ではないとは思っています。

私の考え

 サウジアラビアの「Breakeven Oil Price(ブレイクイーブンオイルプライス)」が96ドルまで上がってきたからといって、すぐに原油価格が上がるわけではないと思っていますが、少なくともサウジアラビアはもっと原油価格が上がって欲しいと思っているでしょうし、長期的に見た時に価格を釣り上げる方向に動きやすくなるのは間違いないでしょう。
 2023年よりも原油価格は高水準で推移しやすいということ、OPECプラスは原油価格を上げたいと思っていることを理解しておいた方がいいでしょう。

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