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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ

「pH10のアルカリ性です。直ちに中和してください。」
「中和装置代が年間300万円、下水道使用料が年間1500万円。」

相続対策でボロアパートを解体し土地を売る計画は、
ぬるま湯が湧き出たせいで水の泡となってしまった!
更にその処理で多額の出費となることに!

うなだれる私に、友人とその仲間が笑顔で手助けしてくれた。
「下水道には流さない。中和もしない。土地は売らない。
 三年間で当初想定していた土地の売却代を捻出する。」

しかし、その名案は、酒臭く、笑顔とともに見せてくる歯はすっかり抜け落ちていた!

気分屋な友人のモグラ
昔気質の土木親方ジンベエザメ
農家の跡取り娘トキによる
三人四脚、土地再生物語

戊辰鳥 後を濁さず
―つちのえたつとり あとをにごさず―
第一部「釜場」

三月十五日(金)

 農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。
 表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。

 医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税として多額のキャッシュを用意しなければならない。そのため、ボロアパートを解体し、その土地を売りに出した。しかし、なかなかうまくいかない。買い手がつかない。理由はこの土地特有の地盤の悪さだと思う。

 このことについて、土木業界で働いていたハズの友人であるモグラに相談したら、
「地盤が悪いっていうリスクが買い手に過大評価されているのなら、もういっそのことどのくらい悪いのか客観的な数値で表明してしまえばいい。」
 という。
「想定より地盤が良ければ公表し、想定より地盤が悪かったら隠せばいい。」
 という。
 モグラは、この地盤の調査ができる土木会社にツテがあるらしく、依頼をしたらすぐさま動いてくれた。

 その調査の初日である今日は機材搬入と準備作業が主な内容となるらしい。

 調査する区画は、フットサルコート一面分くらいの大きさで、面した道路との段差もない。なので機材搬入はクレーン付きのトラックが一台乗り入れて終了だった。
 クレーン付きのトラックの荷台には、ボーリングマシンといって地面を掘る動力となる、跳び箱五段程度の大きさの機械が一台積んであった。また、その動力を伝わって回転しながら土を掘り進んでいく金属製の連結式の筒が、物置程度の大きさの金属製の箱に満杯に入っていた。後から聞いたが、この箱は水槽としても使うらしい。
 肝心の職人さんたちはどんな方々なのか不安に思っていたら、トラックから降りてきたのは、ジンベエザメの背中みたいにシミがたくさん顔に浮かんだ職人さん一人だけだった。

 準備作業はというと、事前にモグラからヤグラを作るんだと聞いていたので、ジンベエザメに確認したら、「そんなことはしない。」と言われた。なんでもトラックについているクレーンを伸ばして、その先端のフックをヤグラの頂点のフック代わりにするらしい。

 となると、することといえば、スコップで穴を掘ることくらいだ。
 調査作業では、連結式の筒の先端から水を出しながら地面を掘るらしく、溢れてくる水を一旦溜める場所が必要になるらしい。溜まった泥水は、小型の発電機から電力を受けて動くポンプを使ってまた筒の先端に循環させるが、掘り進めるほど量が増える。なので、別のポンプを使って、増えた分だけ先ほどの箱兼水槽に汲み上げる。泥水は水槽で一旦沈殿濾過されて、上澄み水がホースを伝わって、区画の入り口にある道路側溝の金属製の網目に流れ込む形となるらしい。

 なので、トラックから資機材を降ろし、水の流れるルートを作っておしまいだった。一連の準備作業はすぐに終わり、調査作業にかかれるはずだが、ジンベエザメは、「今日は終わり。」と言っていた。なんでもこれからモグラと会って街のスナックに行くらしい。

 なんだかやられたような気がする。

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