《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第15話
三月二十九日(金)
二十年以上ぶりだが動きは体に染み付いていた。
最初は向かい合う職人さん五人の真似をしていたが、胸を反らしたあたりで楽しくなってきた。職人さんの開いて閉じて開いて閉じる足を見ると白い長靴は二人だけで、これから土作業をするのにスニーカーの人もいる。靴の側面のラインは三本ではなく四本で一本お得な上に、つま先には鉄芯が入ってるんだ。と、作業の合間に教えてくれた。
ラジオ体操は第一までで、ジンベエザメが職人さんらに今日の作業内容を簡単に説明してから、作業にかかる。
ボロアパートのあった区画と福祉館の裏の畑は段差はあれど畔を挟んで繋がっている箇所がある。幅は2mほどで、まずはそこの間を掘り返す。重機が入らないのでスコップだ。
最初は全員で掘っていたが最終的には若くてテキパキ働く職人さんが一人で堀っており、残りの四人は裏の畑を一列になって各々のペースで掘り返していた。ジンベエザメはドブに入り、陶器菅の出口に蓋をしている。排水ルート全体が掘り終わると陶器管にグニグニと曲がる蛇腹状の樹脂で出来た管を接続し、下流から埋め戻す。
最後に、ぬるま湯の出ている孔に横穴を開ける。既に水を満タンに流し込んでいた蛇腹の管をすぐさま差し込み、周辺を埋めた。
手際がいい。
トド川にまわり、陶器管の出口の蓋を外すと、ポコポコと水面に気泡が出てきた。しばらくそれを見つめていると、ジンベエザメが、となりで言う。
「もともとここに流していいって許可をもらってたんだ。福祉館の昔の排水より綺麗なもんで、誰もわかりゃしないよ。」
管の中の空気が出きったのか、水面の様子は以前と変わらなくなり、いつしか不安も消えていた。
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