この世界で最も美しいもの

この世界で最も美しいものはなんだろうか?私は不意に考えてみた。

"真由美お待たせ。"

彼女よりも少し背の高い男性が小走りで走ってきた。2人は笑顔で歩き出し、PARCOの中へと入っていった。この2人は、美しいだろうか?わ愛し合う2人ー。私はそうは思わない。
この後2人は、ウインドーショッピングを済ませ、少し小洒落たお店でランチ、食後に映画を見て軽く公園で散歩をして、カフェで少し濃いめのダージリンを飲みながらおしゃべり。そのあと愛を確かめ合って、ムードを作ってお互いの精器を舐め合って、アンアン叫んでおやすみなさい。これは、本当に美しいのだろうか?
性の欲望に満ちた愛。セックスのために付き合ってるのか愛しているからセックスをするのか分からなくなってくる。男の上で腰を振る女の頭の中に一体なんの美しさがあるだろうか?女を犯し、腰を動かす男に美しさがあるだろうか?
そこにあるのは、セックスは子孫繁栄のため、生物の本能的なものである。私は別に軽蔑しているわけでもない。が、美しさを感じるかというと疑問である。そもそも、美しさとはなんだろうか?花が散る、何かが崩れていく。そんなものに美を感じる、私は。最後の晩餐が美しいのは最後だからだ。永遠の終末、あしたからは、跡形もなくなる儚さ。つまり、侘び寂びに美しさを感じるのだ。愛し合う愛に侘び寂びはあるだろうか?

"そこに、侘び寂びはない。"

侘びとは欠落に対しての美しさ、寂びとは錆び行くものに対しての美しさのことを言う。
2人の愛は完結している。2人が交わることに過不足はなく、ただ一つだ。錆び行くことはなく、灼熱の鉄のように燃え上がり、男の射精と共に冷えていく。そして、育まれる愛ー。

本当に美しいのは、報われない愛ではないだろうか。ときに疎まれ、ときに軽蔑され、ときに感謝される。報われないゆえに焦がれ、報われないがゆえに沈んでいく。愛していると伝えてしまった瞬間から全てが変わってしまう。酸素が足りない焔のように、ネジが足りない機械のようにそれは窮屈だ。欠落した穴は侘しい。そして、脆く崩れやすい。欠落は風化を促進していく。桜の花が散るように、その愛が散っていく様は侘しく寂しい。儚さに美しさを感じる。

私の処女が犯される日が来るとして、私は美しくあるだろうか。いっそ、儚く美しいままに報われない愛に溺れてしまうことが。。。

これ以上は考えるのはやめにして寝ることにする。

"ナツさん、僕と付き合って下さい"
"ゴメンね。シンくんのことは恋人としては見れないの。"
"そうですよね。じゃあまた、お友達としてこれからもよろしくお願いします。"
"ごめん、ありがとう。うん"

報われない愛が一つ散っていた。彼女を見送った後の彼は涙していた。美しかった。彼は、彼女のために沢山努力をしたのだろう。今日の告白のために少し小洒落たレストランを予約し、紳士を演じようと努力していたのだろう。しかし、その努力は報われることはなかった。小さい彼の背中はネオンの街へと消えていったー。

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