燃えつきた棒

#名刺代わりの小説10選: 「ユリシーズ」/「百年の孤独」/「砂の女」/「苦海浄土」/…

燃えつきた棒

#名刺代わりの小説10選: 「ユリシーズ」/「百年の孤独」/「砂の女」/「苦海浄土」/ロマン・ガリ「夜明けの約束」/「失われた時を求めて」/「城」/「ダロウェイ夫人」/「薔薇の名前」/イヴォ・アンドリッチ「ドリナの橋」

最近の記事

結城英雄『ユリシーズの謎を歩く』

ものすごく分かりやすい。 読んで行くと、僕の混乱した頭の中もだいぶ整理されたような気がする。/ 「第七挿話 アイオロス」: 【『オデュッセイア』との対応  『オデュッセイア』第十歌で、オデュッセウスたちは浮き島に住む風の神アイオロスから手厚くもてなされる。この神には六人の娘と六人の息子がおり、それぞれ娘を息子に妻としてめあわせ、家族は親しく饗宴に日々を明け暮れしており、オデュッセウスたちもその供応を受けたのである。】/ えっ!近親相姦! ここでは、あくまでも『オデュッセイ

    • 余華『ほんとうの中国の話をしよう』

      三十五年目の六月四日のために。 「六四天安門事件糾弾!ひとり読書デモ」敢行中。 黄昏れても、ポンコツでも、無能でも、燃えつきても、読書デモ実施中!/ 小説『活きる』や『兄弟』などの作家余華(ユイホア)が、「人民」、「領袖」、「読書」、「創作」、「魯迅」、「格差」、「革命」、「草の根」、「山寨(シヤンチヤイ)※1」、「忽悠(フーヨウ)※2」の十のキーワードで、大躍進、文化大革命、天安門事件、現代中国を斬る。2012年出版。中国国内で発禁処分! 必ずしも、悲憤慷慨ばかりではない

      • 『中国現代文学1』

        二〇〇八年四月に出版された本誌の創刊号である。 昨年末のひつじ書房の大特価感謝セールの際に、このシリーズの未入手本をまとめ買いしたが、そのとき創刊号だけは入手できなかった。それが今回入手できたので、さっそく手に取った。 毎年六月は、一九八九年六月四日の「六四天安門事件」を記念して、僕は中国関連の本を読むことにしているのだ。/ 残雪「阿娥(アーウー)」: 残雪にしては、思いの外読み易い。残雪版「青の時代」か?/ 阿娥という謎めいた少女が出て来る。 この少女、なんだか僕には作

        • 高井有一『北の河』

          《ふるさとの訛りなつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく》(石川啄木『一握の砂』より。)/ 母は秋田県由利郡、現在の由利本荘市の生まれで、僕も子供の頃、よく母に連れられて、秋田に帰省した。 実家に帰ると母は、たちまち秋田県人へと豹変し、兄弟姉妹や友人たちと秋田弁で饒舌に喋っていた。 その言葉は、生まれは秋田市だが千葉育ちの僕には意味が分からないこともあったが、その懐かしい響きは今も耳に残っている。 はたして、秋田ゆかりの作家が秋田を描いたというこの小説に、その響きを聴くこ

        結城英雄『ユリシーズの謎を歩く』

          『中国現代文学2』(中国現代文学翻訳会編)

          まず、史鉄生の随筆「人形(ひとがた)の空白」、「反逆者」のに強く惹かれた。 【ここには必ず一つの物語が、悲惨な、あるいは滑稽な物語が隠されているはずだ。しかし、私は考証する気はない。(略)物語は、ときには必要だが、ときには人に疑いを抱かせる。物語というものは物語自身の要求から逃れ難い。心を揺り動かし、感動の涙を誘い、起伏と変化に富み、結局のところ人を酔わせようとする。その結果、それはただの物語になってしまう。ある人の真実の苦しみが、ほかの人の編んだ楽しみに変わり、一つの時代

          『中国現代文学2』(中国現代文学翻訳会編)

          『平ら山を越えて』(テリー・ビッスン)

          「平ら山を越えて」: この短い物語で、展開が読めてしまうというのは、ちょっといただけない。/ 「ちょっとだけちがう故郷」: 一つのメルヘン。 主人公トロイのいとこの少女チュトの面影が忘れられない。 この短篇が読めただけで僕は満足だ。 ある日、トロイとバグは古びた競走場で、旧式飛行機のようなものを見つける。 そして、次の日、オンボロ飛行機は三人を乗せて空へ飛び立つ。/ 【チュトはトロイのいとこだが、姉のようなものだ。(略) チュトは十一歳、トロイよりひとつ年上というにはすこ

          『平ら山を越えて』(テリー・ビッスン)

          『リトビネンコ暗殺』(アレックス・ゴールドファーブ&マリーナ・リトビネンコ)

          スターチャンネルのドラマ「リトビネンコ暗殺」が、あまりにもリアルだったので、たまらず手に取った。 ドラマの方は、暗殺事件とその後の捜査だけを描いているが、本書は職務に忠実なFSB(ロシア連邦保安庁)職員だったリトビネンコが、何故FSBに叛旗を翻すに至ったのかを丁寧に描いている。 逆に言えば、暗殺事件そのものに関する記述は、ラストの40ページほどでしかなく、ドラマでは詳細に描かれている警察の捜査については、ほとんど触れられていない。/ スパイ物はほとんど読んだことがなかった。

          『リトビネンコ暗殺』(アレックス・ゴールドファーブ&マリーナ・リトビネンコ)

          BSスペシャル 「ジャパニーズ・ドリーム〜ネパール人留学生たちの日本〜」

          獏は夢を食べる生き物だと言われている。 もし、そうだとすれば、日本社会は一匹の巨大な獏なのではないか? アジアの発展途上国の若者たちの夢を食らうことによって生きながらえているのだから。/ 貧しい国に生まれた彼らは、日本に来るために多額の借金(番組で紹介されていたケースでは170万円で、これはネパールの公務員の最低年収の6年分にあたるという。)をしてくる。/ 【日本に来てから 睡眠を売って夢を買うということを知った】/ 留学生には、週28時間までのアルバイトが認められてい

          BSスペシャル 「ジャパニーズ・ドリーム〜ネパール人留学生たちの日本〜」

          『ゴダール映画史(全)』(ジャン=リュック・ゴダール)

          ゴダールが1978年にモントリオールで行った映画史についての講義を収録したもの。 僕は昔からゴダール映画の良き観客ではない。 学生時代は、名画座に通ってはずいぶんたくさんの映画を観たが、トリュフォーやベルイマンやワイダなどが中心で、ゴダールはほとんど観なかった。 その後、テレビやDVDで観るようになっても、「勝手にしやがれ」、「女と男のいる舗道」、「軽蔑」などは観たが、たぶん10本は観ていないのではないか? なんとなく、ゴダールの映画は観終わったときにこれというシーンが残らな

          『ゴダール映画史(全)』(ジャン=リュック・ゴダール)

          『芝居の面白さ、教えます 井上ひさしの戯曲講座 海外編』(作品社)

          2001年12月から2005年12月に、仙台文学館で井上ひさしが行った「井上ひさしの戯曲講座」(全7回)の中から、海外編を収録している。 シェイクスピア、イプセン、チェーホフ、ニール・サイモンの順に並べられており、最初のシェイクスピアこそシェイクスピア音痴の僕にはあまりピンと来なかったものの、他の三人について語った部分は、語り口は飄々として軽いが、内容は深い。 特に、チェーホフ「三人姉妹」の分析は見事で、まさに目から鱗の分析だ。 また、ニール・サイモンの章を読んで、どうしても

          『芝居の面白さ、教えます 井上ひさしの戯曲講座 海外編』(作品社)

          『プーチニズム』(アンナ・ポリトコフスカヤ著)

          アンナ・ポリトコフスカヤは、モスクワの新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」紙の評論員だった。 第二次チェチェン紛争やウラジーミル・プーチンに反対し、批判していた。/ 第六章「ノルド・オスト」ーー絶滅ザクセン現代史: 「ノルド・オスト」とは、「モスクワ劇場占拠事件」(2002年10月23日、チェチェン共和国の独立派武装勢力が起こした人質・占拠事件)である。 40-50人の重武装のテロリストが、観客ら922名を人質に取った。/ 【十月二十六日早朝、劇場内にいた人びと全員に対してガス攻

          『プーチニズム』(アンナ・ポリトコフスカヤ著)

          『短篇で読むシチリア』(武谷なおみ編訳/みすず書房「大人の本棚」)

          フランシス・フォード・コッポラ監督の映画『ゴッドファーザー』製作の裏側を描いたドラマ「ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男」から、マフィアの故郷シチリアへとやって来た。 ドラマの方は『ゴッドファーザー』にまつわる数々のトリビアが散りばめられていて、一瞬たりとも飽きさせることがなかった。/ 「言語学」(レオナルド・ショーシャ): 【「(略)この言葉を記載した最初のシチリアの辞典は、一八六八年出版の、トライーナ辞典だ。(略)」 (略) 「(略)辞典によると、トスカーナ地方

          『短篇で読むシチリア』(武谷なおみ編訳/みすず書房「大人の本棚」)

          『100分de名著「トーマス・マン 魔の山」』

          もとより、この企画がなければ、僕はほぼ間違いなくこの小説を読まずに終わっただろう。 その意味で、この番組には感謝している。 また、本書で小黒先生が展開する読みにも、深読みの楽しさが溢れている。 ハンスを使徒ヨハネとみる読みも、「七」をめぐる読みも、目から鱗の読みだった。 だが、しかしだ。 《君は予感に満たされながら「陣地とり」をすることで死と肉体の放蕩の中から愛の夢が生まれる瞬間を経験した。このように世界を覆う死の祝祭からも、雨模様の夜空をいたるところで焦がす熱病のような

          『100分de名著「トーマス・マン 魔の山」』

          トーマス・マン『魔の山』(下)(岩波文庫/関泰祐・望月市恵訳)

          セテムブリーニとナフタの論戦が所狭しと繰り広げられるが、肝心の登場人物たちの造形は、いささか記号的人物のように感じられて仕方がない。/ 第一に主人公ハンスだが、ショーシャ夫人に心惹かれるが、彼女がいったん山を降りると、手紙のやり取りで恋情をつのらせることもなく、たちどころに夫人を忘却の彼方へと打ち捨ててしまったように見える。 また、『八甲田山』ばりの死の行軍に足を踏み入れるも、肺に浸潤を抱えているにもかかわらず、生還後に深刻な病状悪化があった様子など微塵もない。/ 第二に

          トーマス・マン『魔の山』(下)(岩波文庫/関泰祐・望月市恵訳)

          『魔の山 上』(関 泰祐、望月 市恵 訳、岩波文庫)

          だいたい、ハンスの行動は最初から変だった。 普通の健康な人間にとって、病や病者とは通常禍々しくて遠ざけるべきものであって、誰も病者の群れの中に三週間も身を置こうなどとは考えないだろう。 そんなことを考えるのは、早すぎた父母の死(二人とも【彼の五歳ど七歳のあいだに死んだ】)から類推して、自らの体内にもすでに死が育ちつつあるのではないかとの不安を抱いている者だけになし得ることではないだろうか?/ 【音楽は時間の流れを、きわめて特殊ないきいきとした分割法によって目ざませ、精神化し

          『魔の山 上』(関 泰祐、望月 市恵 訳、岩波文庫)

          安部公房全集003

          「保護色」: 【「(略)カメレオンは皮下に多くの色素粒をもった色素細胞があり、視神経を通して外界の色がこの細胞に伝えられると、一定の色素粒だけが選択的に拡散または集合し、体色変化が起きるのです。(略)私の学説が正しいとすれば、あなたのような人が続出し、やがて人類の過半数が保護色を呈するようになるはずです。】/ 案外、もうすでに多くの人類が保護色を持っているのではないか? 周りが赤なら赤に、周りが黒なら黒に、自在に体色を変化させることができれば、いつだって絶対に多数派でいるこ

          安部公房全集003