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行きすぎた好きと悲しみ

昨年、大手の芸能事務所や大物芸人の不祥事が明るみに出た。
どちらも性加害で、被害者がいる事件。
ショックを受けた人も多いと思う。

海外のメディアが、日本の大手芸能事務所・J事務所 (今は社名を変えている) の創業者が長年に渡り少年たちに性加害を行っていたことを世の中に知らせたことがきっかけで、これまで声を上げられなかった人達が被害を訴える流れができた。
加害者は一芸能事務所の創業者とは言っても日本のメディアを操れるくらいの力を持った権力者だから、被害に遭っても報復が怖くて警察に行ったりメディアに告発したりできなかったのだろう。
YouTubeの硬派な番組や週刊誌に載っている被害者の証言は、とても痛ましい。

才能とお金があれば何をやっても、例え人の心身に傷を負わせても許されるなんておかしい。
これは私の考えだけど、加害者側が社会的地位や財を持っている場合や、ある業界内で人を指導する立場にある場合は推定無罪は当てはまらないと思う。
それに、件の芸能事務所は過去にこの問題を報じた週刊誌を裁判で訴えたが、「子供達に加害した」という記事に対しての充分な反論ができていないことや、被害者は未成年の時に被害を受けていたこと、上下関係があることから敗訴している。
そのことについては、大手メディアはほとんど報じていなかったという。すごく理不尽だ。
私は、今も戦っている被害者の方々を支持する。

海外メディアの報道を機に声を上げる被害者は増えたが、一方で被害者を誹謗中傷する人、中傷に耐えかねて自ら命を経った人も出てきてしまった。
この期に及んで「加害されたという証拠を出せ!」、「騒いでるのは売れてない人だけじゃん」などという人もいる。
性犯罪はすぐに訴えることが難しいとか、日本では被害に遭っても泣き寝入りする人がほとんどとか、証拠が残りにくいということはちょっと考えればわかるはずなのに。
ましてや、J事務所を告発した人達は未成年の頃に被害を受けている。
どうしてそんな冷酷で無神経なことを言えるんだろう?と思ってしまう。
「生きがいを取り上げられた」、「好きなものを不当に貶された」、「推しがいじめられている」などと感じて、それが行きすぎると行動に移してしまうのだろうか?

「好きになる」ということ

何かを好きになるというのは、いいことだ。
でも、それが人生の全てになってしまうときけんなのかもしれない。
旧J事務所のアイドルのファンも、昨年事件が明らかになってアイドル個人としては好きだけど事務所には幻滅した人や、他の推しを見つけた人が多いと思う。世の中での扱われ方が悪くなって嫌な気持ちになっても、匿名で被害者に対して「証拠を出せ!」と言ったりまではしないはず。
でも、それ以上の好き、周りが見えなくなるくらい好き、推しを育てた事務所も含めて信仰心に近いレベルの好きだと暴走してしまう人もいるのかもしれない。
とにかく推しがテレビに出られなくなったのが気に食わない、事務所の名前が変わったのが気に食わない、好きなものにケチがついて自分の全てを否定された感じがして嫌などなど。

どうして、自分とアイドルをそこまで同一視するのかと言えば、そうしないと生きるのが辛いから。
そして、似たもの同士は集まりやすいから仲良くなるのも似たような思考の人ばかりになる。そうなると、「推しがこうなったのは騒いでるやつらのせいだ!」と見当違いな方向に怒りをぶつける人同士でより強い連帯感が生まれて、止める声は耳に届かないのだろう。
とにかく、隠蔽体質の事務所も、過剰な接待を受けて事務所に操られていた日本の大手メディアも罪深い。
正論が通じないくらい追い詰められる人々を生み出してきた社会も。
せめて、20年くらい前に裁判が起きた時にもっと大きく取り上げられていれば良かったのに。

私はたまたま、アイドルとかお笑い芸人みたいにゴールデンタイムの歌番組やバラエティ番組に出まくっている人を好きになることがあまりないから冷静でいられるけど、もしも自分が大好きな歌手が不倫、違法薬物、パワハラなどの不祥事を起こしたとか、公の場で問題発言をして炎上したとしたら冷静でいられるかわからない。
YouTubeやSNSのみで活動している有名人はアンチもつきやすいから悪く言われてても「そんなもんか」と思えるけど、心の支えになってる歌を作ってる歌手がそうなったらやっぱり嫌だし、「こんなのは嘘だ!」と言いたくなると思う。
それでも被害者がいる事件を起こしたとしたら、わざわざ被害者側を叩くようなことはしたくない。
私が大好きな歌手は、弱い立場から見た世界を力強い歌で表現できる人だから。ファンがそんな行動を取るのは望まないと思う。

今、喪失感に苛まれている人や心の整理がつかない人も、新たな心の拠り所が見つかるか、「推しが別のところに行ってもいい」と余裕を持って応援できるようになればいいのに。


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