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ふありのリハビリ作品 act.11


Make a Wish(願い事)


この作品はシリーズ作品なのでマガジンを作成しています。ご興味を持たれた方、途中参加の方はそちらの方からお薦め致します。


#11、和解

「5歳の時に王子と約束?!な、なにそれっ。莉々那りりなあんたもませているね〜。ちょ〜〜っと曲がった方向に育っちゃったけどさ。それで、王子は怒っていないの?ルーナとか、約束を反故ほごにしたりして」
反故という言葉に、チクリと胸がいたんだ。
まれくん、あまり気にしていない感じ。…なんか賢者みたいに悟った感じなの。それに稀くんが結婚出来るのだって、あと2年。その間は、お互いのことゆっくり知っていければ…」
「へーー。意外と予定立てたりしているんだ。で、あとは子供だね。莉々那、たしか友だちになったときは、赤ちゃんはキャベツ畑から産まれてくるって、本気で信じていたしね…。ま、あたしが吹き込んだの真に受けて」
 顔が、カアアアって火照ほてる。そ、そんなことも…ありましたねっ!あたしが羞恥心でいっぱいになるのを、面白がるように、風帆かほが続ける。
「大丈夫。莉々那は健康だし、病気もないし、王子の望む、沢山の子供が産めるって」
 風帆が、あたしの頬を人差し指でツンと、突っついてくる。風帆は、スキンシップが上手い。
「善処します」
 そんなやり取りをして、校門が見えてくると、丁度角を曲がろうとしたら、朝の恒例行事の話が聞こえた。

『ねえねえ、見た?今日は王子だけでなく、騎士様も居るの。王子は分かるけど、ほら、白雪姫。でも、騎士様までなんで一緒なんだろうね?』
『あ…あんた馬鹿?つい先日、騎士様が白雪姫に告ったって、朝からすごい騒ぎだったんだよ〜』
『え、マジ?!』
『しーーっ。声大きいって』

そこで、風帆が、わざとらしい咳をする。コソコソ話の女の子たちは、ひっと声を上げ逃げるように校門めがけて、走っていく。
「でもさあ、ホント、なんで騎士先輩まで一緒なんだろう」
そう、上の空で呟きながら風帆は右手を大きく振る。
「おはよー、王子!」
「おはよ〜莉々〜」
噛み合わない挨拶に、あたしと騎士先輩が同時にため息を吐く。
ようやく、校門を潜ると、サッと騎士先輩が、あたしの腕を取り、
「稀、暫く白雪を借りる」
「「「えっ」」」
あたしと、稀くんと、風帆が同時に反応する。騎士先輩は、額に手を当て、
「少し話すだけだ。それ以外のことは何もしない」
と、稀くんが前屈みになって抗議する態度をとるので、騎士先輩は、低血圧なのかいつもの余裕を感じさせず、ポンポンと稀くんの黒髪を叩く。
「少しだけだからねっ!莉々は僕のお嫁さんなんだからねっ!」
必死になってわめく稀くんに、騎士先輩は、
「その言葉は、聴き飽きた」
と、釘を刺し、あたしの腕を引っ張るかのように校舎の裏庭の方へ連れて行かれる。
 ここは、飾音かざねオアシスと呼ばれる、裏庭の小さな噴水がほとばしる庭園になっている。校舎と全く雰囲気の違うこの場所は、生徒たちの憩いの場だが、数が多いと校舎の廊下とさして変化がないので、あまり、生徒はこの場所を利用しない。
 騎士先輩が、噴水の縁に腰を下ろすと、
「例の件だが…持ってきてくれたか?」
と、騎士先輩には不安そうな意外な一面を見せる。あたしが、風帆を裏切り、騎士先輩の告白を受けた時に頼まれた、ある物をあたしは通学バッグの中から引っ張り出した。
「はい。白雪家の家庭料理のレシピです。ママが喜んでいましたよ。今どき、料理が趣味のイケメンなんて珍しいって」
あたしはクスクス笑いながら、ママお手製の《白雪家のご飯メニューと作り方》の、ノートを渡し背中で腕を組む。
「助かる。母君には、後日改めてお礼に伺う…凄いな…写真つきか」
珍しく、騎士先輩が、頬を赤く染めて、頭を下げる。
「お礼なんて気にしないでって、あたしがママならそう言いますけど。その代り、稀くんに栄養に偏らない、バランスの取れたご飯を作ってあげて下さい」
「ああ、約束する」
あの日、怪我をしたあたしに先輩が頼んだのは、家政婦が作ってくる料理は、やたらとカロリーや糖質の高い、年に一度のクリスマスで食べるような、それはそれは身体に悪そうな豪華な食事で、稀くんは自然と食が進まなくなったそうだ。結果、あのように、痩せた華奢な身体をしているとのことで、その事をずっと悩んでいたらしい。わたしが、ふたりのシェアする家で、暴言を吐いたのが、騎士先輩の心を動かしたと言う。
「…あの時、正直白雪に腹が立ったのは事実だが、だからと言って、自分が偉そうな事を言えた義理ではないと、ずっと稀を放置した、自分の責任だと思っている。だから、今後の稀の食生活はできる限り自分が責任を持と思う。本当に助かった」
騎士先輩が、かしこまってお礼をするので、わたしは両手を振りながら、
「風帆は…あたしの大切な親友なんです。期間限定の彼氏でなく、もっとずっと大切にして下さい」
 騎士先輩は、一瞬目を見張り、やがて小さく頷いた。


#12、エンゲージ(最終話)、に続く




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