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ふありのリハビリ作品 act.12(完結)

Make a Wish(願い事)


※この作品はシリーズ物なので、マガジンを作成しています。ご興味を持たれた方、途中参加の方には、そちらからも入って頂くと、読みやすいかと思われます。
宜しくお願いします。


#.12、 最終話♡ エンゲージ

3ヶ月経ったある日のこと、いつもの様に、まれくんと昼食を屋上で食べていたら、
「騎士ね〜風帆かほさんを、正式な彼女にしたんだよ。騎士の初彼女。裏表のない、他の子みたいに媚びたりしないところが、気に入ったんだって。時には喧嘩も…あ、口喧嘩もするって苦笑いしてた」
あたしは、昨晩の夕食の残り、すき焼きのお弁当を咀嚼しながら、ママお手製の、果物メインのスムージーを一口啜る。
隣では、稀くんが、
「ん〜おいしい。茉莉まりさんのお料理も、お菓子もドリンクも、み〜んなおいしい」
と、ご満悦だ。
「…ごめんね、料理下手で」
にこにこ満面の笑みを浮かべていた稀くんの笑顔が固まる。
「ええええ!そんなコトない、莉々りりが作ってくれる、手作りお菓子、あれ僕大好きだよ。僕的にはしっとりした食感のガトー・ショコラが好き。甘さ控えめで、すっごくおいしいよ」
稀くんが、そっとあたしの顔を覗き込み、不安そうな表情をする。
「も〜。怒ったりしてないって。お菓子は得意だけど、お料理は全然駄目。ちょっとコンプレックスだったから…でも、ガトー・ショコラはあたしも大好きだから、稀くんに褒めてもらえて嬉しい」
コクコクと頷きながら稀くんは安堵したようだ。
「そういえば、稀くんの誕生日、もうすぐだよね?17才だっけ?」
ママが、稀くん用に用意したスムージーをコクコク飲んでいるので、タイミング外した…と、思っていたら、左手の甲にペンペンと叩かれた。
茉莉まりさんのスムージーも、やっぱりおいしいね〜。ん〜。そう、7月の22日、僕の誕生日。覚えていてくれて有難う」
だってね…好きな人の誕生日だから覚えているに違いないじゃん。
「ねえ…場所決めてお誕生日パーティ開かない?風帆とか、騎士先輩を呼んで…Wデートみたいだけど…」
あたしの提案に、稀くんは、眸を大きくみひらく。
「場所は、勿論莉々の家」

*****

『Happy Birthday稀!!』
稀くんの誕生日、風帆かほは白いタキシードのコスプレ服を作ってきて、恥ずかしがる稀くんに無理矢理着せて、大満足だ。
「馬子にも衣装…だな…」
毒舌キャラのように呟く騎士先輩。
「騎士まで〜意地悪言う〜」
今日のパーティでの食事はママが胸を張って『17歳の忘れられない1日にしてあげる!』と、張り切った感があって、ママの好きな、英国アフタヌーンティ風のご馳走になった。苺のジャムをたっぷり挟んだ、ヴィクトリアンケーキや三段のケーキスタンドには、下からきゅうりのサンドイッチ、中間に焼き菓子、一番上は、あまいクリームやジャムのふんだんに盛りつけられた菓子。
「ママってこんなに才能あったっけ…」
内心、ママを尊敬しつつ、年の功だから敵わないのは当然だと思った。
バースデーパーティーだけど、喋る内容は学校での内容と大差なく、ママが特別に用意してくれたマリアージュ・フレールの紅茶を飲みながら、雑談していると、ママが、
「はい。バースデーケーキ」
それは、スクエアの形をした、ホイップクリームをヘラでムラ無く塗るのが大変だった、あたしの手作りのケーキだ。緑のハーブを飾り、細いステックのスポイトで、
『Happy Birthday』と記した。
「お菓子作りは好きだから、稀くんにどうしてもメインのケーキだけは作りたかったの」
顔が熱い。まともに稀くんを見れない。
すると、騎士先輩が、稀くんに、贈った日曜大工の延長線上の『王子様の椅子』から、立ち上がり、抱きついてくる。
「ま、稀くんっ!?」
「ありがと〜莉々。僕こういうシンプルなケーキ大好き」
にっこり涙目になる稀くん。
食事も、終わりかけた時、あたしは意を決して稀くんを庭先に誘った。
「どーしたの?二人きりになりたいって」
稀くんの問いに、あたしは、「…あの…あのね…」と、緊張で震える声を堪え、
「将来、あたしを稀くんの…お嫁さんにして下さいっ!」
と、稀くんのすべすべの頬にキスをした。
「えええ…莉々、本当?約束、叶えてくれるの?」
稀くんが興奮した口調で確認してくるので、あたしは、コクンと頷き、
「至らないことばかりだけど、お願いします」
「至らないところなんてない!莉々が、僕を想ってくれるなら」
「…うん」
「莉々…大好き」
今度は、稀くんの方からそっと抱きしめてくれて、あたしの項に顔を埋め、嬉しいと、感動の涙を流した。

*****

夏休みに入り、数日経ったある日、あたしと稀くんは、稀くんのママの眠るお墓に婚約の報告をしに来た。
海沿いの小さな墓地だった。
「ママ。僕、莉々と婚約したよ。結婚したら大家族になって淋しい思いのない生活をするんだ。ここで、ママと過ごした数年間は、ママも僕も淋しかったと思う。だからね、これからは、賑やかで笑い声の絶えない家族を作るの。天国から、見守っていてね」
それだけ告げると、稀くんは背後のあたしに向かい、
「これ、ママの形見。いつか、結婚したいほど好きな人が出来たら、渡して、ってママがくれたの」
小刻みに震えるあたしの左手の薬指に、稀くんが、そっと指輪を通す。そのあたしの手をぎゅっと頬に当て、稀くんは、
「必ず、2人で幸せになろうね。僕たちの願い、ママも祈ってくれているよね」
と、涙目で呟くので、あたしは、何度もコクコク頷いた。
海風が、頬を撫でる。5歳の時に稀くんと交わした約束を果たせるまで、あと1年。
それが叶う日まで、お互いを知り、愛情を育む。
それが、今のあたしの、『願い事』。



ご拝読有難うございました。

今作をもちまして、リハビリ作は終了いたします。皆さまの、長いご愛顧、本当に有難うございました。この作品もマガジンに登録するため、また、#1から読み返して頂くのもお薦め致します。
それでは、今後も精進して、又、noteのクリエーターとして、恥じない人間で有りたいと思います。皆さま、今後ともよろしくお願い致します。 


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