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⑥春の嵐〈雨のち晴れ〉完

晩春とも言うべきか。春の終わり。春の末。東京は雨が降っていた。シトシトと身体に沁みる。昨日より気温も下がり、冷たい雨が外に停めている自転車を濡らしている。

藤原灯は時計を見て、そろそろと出かける支度を始めた。5/1は映画館のFirst dayだ。この日に観ようと思っていた流行りの映画を観に行くのだ。雨が降っていて迷ったが、念の為にチケットはインターネットから購入しておいたので、是が非でも行かないと…と思って簡単に化粧をした。貧乏性。それにしても、なんとも便利な時代になったものだ。スマホがあれば座席指定までできてしまう。いつものように端に近い席にした。向かって右、というのがお気に入りだ。

傘をさして、家を出た。久しぶりに歩いて5分のバス停に向かった。程なくしてグリーンのバスがやってきて、スマートウォッチに入っている交通系ICカードでバスに乗り込んだ。

街中のショッピングモールにあるシネマコンプレックスはそれほど混んでおらず、いつもごった返している売店は並ばずに専用アプリから注文し、番号で呼ばれてポップコーンを受け取った。兎にも角にも便利な時代。新型コロナの感染予防によるIT技術の加速化によるものか?

席につくなりスマホを取り出し、彼にLINEした。「楽しそうだね」と返信がきて、藤原灯はニコニコしながら音量を消した。

そして、シネコンのふわふわとした座席と程よい暗さに身を包まれながら、ポップコーンをボロボロこぼしつつ、軽い眠りに入っていくのであった。


目が覚めて、シネコンを出ると外はすっかり雨があがり、ジメッとした空気に触れた。懐かしさを感じる気候。

もうそろそろ春は終わる。藤原灯が大好きな梅雨はもうすぐ訪れる。雨が心の中にこびり付いている悲しみや苦悩を流し、梅雨の晴れ間に紫陽花が咲くと小さな蕾のようなたくさんの笑顔が訪れることを知っているから。

彼から「ツムツムでスキルチケットもらったよ、金の宝箱から」とLINEが届いた。金の宝箱…?なんだっけ。すぐさまそう呟いて、返信した。

そのうちに、金の宝箱って…と腑に落ちる。なるほどね、そっか。赤いポイントのくじ引きのことしか思い浮かばなかった。二人だけの遠回しなコミュニケーションのひとつ。あはは、あははと独りで笑う藤原灯は、今日も彼に愛されている。

春の嵐【完】


あとがき

小説のようで小説でないため、日々平穏で嵐は来ませんでした(汗)

毎日楽しく仕事をしています。仕事にもすっかり慣れて順調。お客様は奇想天外な方ばかりで、それこそ「事実は小説より奇なり」の日々。驚きの連続。書きたい衝動に駆られますがコンプライアンスもあるので、やめておきます。

今後は仕事以外の小説っぽい日記を書こうかな。小説自体は後々。こんなことを書いていたら、彼からきっと「夢がありますねw」とまた言われちゃいそうだな・笑。


お読み頂いた皆様、お世話様でした☆。.:*・゜

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