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ミステリーと女性読者

 皆さんは小説を書くときに読者層を想定しているだろうか。
 私はデビュー作まで、読者を意識して書くことはなかった。そんな余裕はなかったし、自分が書きたいテーマを実現するだけで精一杯だったからだ。
 デビューしてから一年ほどした頃、ミステリー作家(複数)のイベントに、一ファンとして参加したことがあった。
 会場に着くと、二十代から四十代くらいの女性が多く、その姿が目立った。なんとなくミステリーの読者に中年男性をイメージしていたので、意外だった。そこで、今のミステリー界はこうした女性読者に支えられているのではないかと私は思いついたのである。
 乱歩に「女性と推理小説」というエッセイがあり、そこにこんな記述がある。
「私は戦後ずっと少年雑誌に推理冒険小説を書いているので、子供の読者からたくさん手紙がくるが、このごろでは少女の手紙の方が多い。
 また、見知らぬセーラー服の少女たちが三人、五人隊を組んで、私の家へサインをもらいにくるようなこともある。道で出会ったときサインを求められるのも、少年よりも少女のほうが多いのである。
 女性推理小説読者が増大しつつあることについては、まだいろいろ話題があるが、紙数が尽きたので、これにとどめる。いずれにしても、日本でも女性が推理小説の大きな読者層になりつつあることは、まちがいないのである」文藝春秋昭和三十三年五月号

 さすがは大乱歩、今のミステリー界を何十年も前に見抜いていたのだ。
 今年の一月、とある会合で、書評家の方と「最近、冒険小説の元気がないようですね」という話をしたとき「今は海外でも、冒険小説やハードボイルドの人気がなくなっている」という答えが返ってきた。
 そういえば、冒険小説・ハードボイルド小説を好むのは男性読者に多い。女性読者を獲得出来ないジャンルは衰退していく運命なのかもしれない。
 となれば、やることは一つ。女性読者に受けるミステリー小説を書いて、売り上げアップを狙おうではないか。そこでどうやって女性読者を獲得出来るかを考えてみた。
 ◉女性を主人公にして、読者の共感を得る。
 ◉女性に受けそうなイケメン男性を出してみる。
 ◉恋愛要素を入れてみる。
 ◉女性が嫌悪感を持つような描写・エピソードは入れない。*1
 以上を踏まえて、二作目を書いてみたのだが、効果があったかは不明である。ただ、連作短編集の中の一編が映像化されたので、多少は意味があったのかもしれない。

*1 今年の乱歩賞における選評で「女性差別的表現が多く」という指摘があった。小説の中で、女性を見下したり、バカにするような表現はやめておいた方がいいだろう。

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