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源氏物語 夕顔の巻 概略17(東山にて最後の対面 )



・ 出発

気分はますますすぐれず堪え難いような具合だし、見知らぬ場所に密かに出掛けることの危険も骨身にこたえているところで、躊躇もされるのですが、それでもなお悲しみのやる方なく、
「これが、本当にあの女との最後の別れなのだから」と出かけずにはいられないのでした。

行く道が果てしなく遠く感じられます。
十七日の立待の月が出ています。
お忍びなので前駆の松明の火勢も弱く、鴨川まで来ると人家もなく、鳥辺野の方などはまして気味悪い夜の景色です。

・ 東山にて最後の対面

心が麻痺してしまっているのか愛に逸るのか、源氏は恐ろしさなどは何も感じず、ただ心乱れるばかりのうちに鳥辺野辺りの尼の家に着きました。
人気なく荒れ果てた恐ろしいような場所に、板屋の隣に御堂を建てて勤行している様子です。
尼の住居は大変寂しげです。
仏前の御燈明の光が隙間から仄見えています。

住まいの方からは女一人が泣く声だけが聞こえて、外の方法師2,3人が何か話したり、小さく念仏も唱えています。

清水寺の方には光が多く見えて参詣の人の気配もまだ絶えないのですが、ここの近くの寺々の初夜の勤行は終わったらしく、とても静かです。
ここの尼君の子の高僧が経を読む声が尊くて、源氏は体中の涙が出てしまうように泣きました。

家に入ると、右近は屏風を隔ててこちら側に臥していて、火取り香炉をあちら側に置いて、死者のいる部屋のこしらえになっています。

捨て置かれてどんなに侘しい思いでいたろうと、たまらない気持ちで近くに寄ると、その人は可愛らしく、まだ少しも変わった様子がありません。
手を取って、「もう一度声だけでも聞かせてよ」「どんな因縁なのか、短い間だったが、心の限りに愛しく思えたのに、私を捨ててこんなに惑わせるとはなんということか」と声も惜しまず際限なく泣き続けます。

惟光の行き届いた計らいで、僧たちは素性を知らないままなのですが、珍しいほどの男の哀惜に皆涙をこぼしました。


Cf.『夕顔の巻』東山にて最後の対面

眞斗通つぐ美

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