来年のカレンダーを見る 悲しみ曜日の翌日は悲しみ曜日だ
【ピエロの手記70 断章58】
太宰治のゆかりの地三鷹に発して
遊歩道は一路武蔵野を抜けて多摩湖に連なっている
左手の灌木の紅葉に心躍る人は
行く手に希望を持っている人だ
右手の紫陽花が雨にけむって
その青に胸を打たれる人は
心のよすがのない人だ
紫陽花の途切れた一角に
白い屋根の小さなカフェがある
❛風のシンフォニー❜ だ
照明を落としてある店内は
心の隠れ家のようだ
ドリップでたてるコーヒーのほのかな香り
でもコーヒーがお目当てじゃない
私がこのお店に来るのは
〈悲しみ〉を〈悲しむ〉ためなのだ
ふつうの日常生活のなかでは
悲しんでいるいとまはない
仕事のことで頭はいっぱいだ
だから
私の唯一の癒しは ❛風のシンフォニー❜ なのだ
ひとり 古い木のテーブルにもたれて
悲しみに向き合う
悲しみと一つになる
〈悲しみ〉を〈悲しむ〉
私にはこの癒ししかないと分かっている
今まで生きてきてよく分かっている
だから
今日が悲しみの曜日なら
明日も悲しみ曜日なのだ
‟悲しいピエロ”
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