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【連載】負けない 第5話

 弘の話を聞きおえた悦子は、

 まあ、命があってのもの種だわ、交差点でボーとしているから怪我をするのよと鼻で笑った。だけど弘の事故は、私のことを考えていて遭遇したのだ。いい迷惑だと思った。

 料理が運ばれてきたが、悦子は食欲がなかった。弘のお袋が料理をよそってくれ、「悦ちゃん、どうぞ」と勧めた。

 どうして弘はお母さんを連れてくるのか、結構マザコンじゃないのと、悦子は思った。ついそのことが、口から出た。
「お母さん、どうして、弘さんに付いてきたの?」
 弘のお袋は、食事の手を休め、
「悦ちゃんと会いたくて」
(冗談でしょ!)と心の中で悪態をついた。そして、
「お母さんは、弘さんの事、心配でご一緒したのでは?」
「悦ちゃん言うわね、違うのよ。実はね、弘の快気祝いを一緒にしようと思って」
「え? この場は弘さんのお祝いの場なの?」
「そうよ、お兄さんから聞いていないの?  ね、そうでしょ」
 隣席の兄は悦子に目配せした。悦子は兄のそのしぐさを無視した。

 とんでもない。弘の快気祝いなんか私に失礼よ。兄は何を考えているのかと、悦子は憤慨した。
「お母さん、私はそんなこと聞いていないわ」
「悦ちゃん、いいじゃないの。なにカリカリしているの」と、弘のお袋が眉間に皺をよせた。
 弘は眼を大きく見開いて、二人のやり取りを見つめている。
「私、帰るわ! 三人でごゆっくり、どうぞ!」と、悦子はスーと離席し、そのまま店から出てしまった。
 
 兄が何か言って後を追いかけてきたが、知るものか! と、そのまま悦子は家に帰ってしまった。

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