杜江 馬龍

エッセイ・短編小説などを書いています。 「もりえ ばりゅう」と読みます。 北海道襟裳…

杜江 馬龍

エッセイ・短編小説などを書いています。 「もりえ ばりゅう」と読みます。 北海道襟裳出身、東京都在住。 2023年9月頃から、noteに投稿しています。 昭和26年生まれ。

マガジン

  • 連載小説 私たちは敵ではない(1話~16話)

    人間と動物(狸)の関わりを通じて、希薄になった現在の人間関係に警告を鳴らす物語です。

  • 連載小説 負けない(1話~9話)

    兄の説得で結婚した女性の内面を抉り出した作品です。

  • 連載小説 リセット(1話~12話)

    結婚生活に失敗した一人の男を中心に、失意から立ちあがる模様を描きました。

  • 連載小説 還らざるOB(1話~11話)

    ある会社の同じ部署の仲間が「仲間会」を結成し、唯我独尊の連中が、飲み会と旅行を通じて人生の深さを感じ合う連載です。

  • 連載短編小説 大衆酒場(1話~3話)

    東京都内のガード下の大衆酒場(めしや)を舞台に、昭和の時代の人間模様を描きました。

最近の記事

【連載】私たちは敵ではない(13)

 犬を飼っているお宅のご主人は、最近、会社を定年で辞めて毎日犬を連れて散歩していた。  それも多いときで一日六回も散歩するのだ。いい加減飽きがこないものか。  昔から知っているご主人であったので、道端で会うときは、挨拶するのだが、捕まったら長い。  三十分でも一時間でも話すので、適当な区切りを見つけて切り上げないと、そのあとの私の予定が狂ってしまうのだ。  柴犬二匹と秋田犬二匹それに土佐犬二匹飼っていた。グループ分けして散歩に出かけているようだ。  犬六匹の餌代だけでも大変

    • 【連載】私たちは敵ではない(12)

       台風が去ったある日、今度の土曜日に妹家族が一泊で家族で遊びに来ると、電話があった。  妹家族三人が泊まるスペースはない。  また皆で話し合った。  狸一家は家の裏庭に横穴のような住居を建て、そこで暮すことを希望した。私もお袋もその提案に同意した。  早速、準備に取り掛かった。土曜日までにはまだ三日ある。大急ぎで資材の調達やら工具の買い付けやら、裏庭の整備に一日中費やした。なぜか狸一家は大工仕事も上手い。  まず、裏庭に、木材で櫓を組み、札幌の雪まつりの大きな雪像の作り方を

      • 【連載】私たちは敵ではない(11)

         その年の秋、大型台風によって、私の住んでいる一帯は、甚大な被害を受けてしまった。  風雨が窓を打ち付ける音に混じって、玄関のドアをドンドン叩く音がした。電灯を付けようとしたら停電で付かない。懐中電灯を探し時計を見ると午前三時を過ぎていた。  急ぎ玄関の扉を開けるとそこには狸一家が雨にぬれ寒そうに立っていた。いつもは三匹であるが、二匹しかいない。  とりあえず家の中に入れ、ストーブのそばで冷えた体を暖めるよう促した。  お袋が物音で目が覚め、起きてきた。  お袋がバスタオル

        • 【連載】私たちは敵ではない(10)

           お袋の言うことには、近所に犬を数頭飼っているお宅があり、最近会社を定年で退職した主人が犬を連れて、一日に六回も散歩に出ているとのこと。  狸と犬はいわば天敵の間柄。  狸一家が夜、家に遊びに来るときに限って、犬と出くわし、狸一家は犬達に追い掛け回されるらしい。そこで、そのうるさい犬どもを何とか狸一家に悪さしないようにするためにはどうしたらいいか、今夜、家で相談するからお前も同席して欲しいとのことだった。  私は同席してもいいが、これといった知恵があるわけでもなく、ただ聞いて

        【連載】私たちは敵ではない(13)

        マガジン

        • 連載小説 私たちは敵ではない(1話~16話)
          13本
        • 連載小説 負けない(1話~9話)
          9本
        • 連載小説 リセット(1話~12話)
          12本
        • 連載小説 還らざるOB(1話~11話)
          5本
        • 連載短編小説 大衆酒場(1話~3話)
          3本
        • 連載短編小説 情報通(1話~6話)
          6本

        記事

          【連載】私たちは敵ではない(9)

           面接から二日後、私に連絡が入った。  面接に行った会社からだった。  来週から来てほしいとの内容だった。私は、すぐ承諾した。  勤務時間は朝の九時から夕方の五時まで、土曜と日曜と祝祭日は休みである。  次週の月曜日に自家用車で初出勤した。就業開始時間の三十分前にその会社に着いた。  営業所長と総務部長、営業部長、製造部長と部長と名のつく方々は既に出社して机に向かっていた。  私は、早速挨拶廻りをした。  九時の始業に朝礼があった。そこで所員六十名ほどに向かって総務部長が私

          【連載】私たちは敵ではない(9)

          【連載】私たちは敵ではない(8)

           年が明け、春風が吹く季節になったある日、  妹から連絡があった。 「兄貴にいい仕事があるらしいんだけど、どうする?」 「どういう仕事だい」 「なんでも、事務の仕事らしいよ」 「通勤時間は車で三十分足らずの所だとか」 「三十分なら丁度いいかもな」 「いいでしょう、兄貴」 「誰の紹介なの?」 「旦那が知り合いから、誰かいないかと、聞かれたらしいよ」 「う―ん?」 「急なんだけれど、明日面接に行かない?」 「明日か?」 「そうなのよ、どうする? 旦那が先方に返事をするといって会

          【連載】私たちは敵ではない(8)

          【連載】私たちは敵ではない(7)

           年が明けて、私は会社の上司に郷里に帰ることを相談した。  一旦は留保してくれたが私の意思が固いことに反論は難しいと判断し、退職願いを受理してくれた。  住んでいるマンションを他人に貸すため、駅前の不動産屋に行き入居募集の手続きをお願いした。  荷物は粗方処分したので、実家に持っていくものは、身の回りのものだけにした。ただ、本など意外と重いものは残った。  区役所で移転手続きを済ませ、羽田空港に向かった。  空港は混み合っていた。大きな荷物を抱えた家族連れや、ビジネス出張

          【連載】私たちは敵ではない(7)

          【連載】私たちは敵ではない(6)

           その夜、妹から私に連絡があった。  実家での出来事を事細かに、電話で話してくれた。  私はショックを受けた。  お袋のことを、何も解っていなかった。  深い反省とともに遣り切れなさを感じた。  何とかしなければならない。  私は独身である。いままで所帯を持ちたいと思うことは、無かったと言ったら嘘になる。  それにしても、わざわざ都会にまで出て、仕事をする意味はあるのかと、ふと思った。  昔の日本は、自分が生まれたその土地で仕事をして、その土地で所帯を持ち、そして親の面倒

          【連載】私たちは敵ではない(6)

          1972年の札幌冬季五輪スキー・ジャンプ70メートル級で、日本人初の金メダリストとなった笠谷幸生さんが23日、虚血性心疾患のため死去した 80歳 —産経電子版から― ノーマルヒルのフロストレール工事に携わった者として、大変お世話になりました 謹んでお悔やみ申し上げます(合掌)

          1972年の札幌冬季五輪スキー・ジャンプ70メートル級で、日本人初の金メダリストとなった笠谷幸生さんが23日、虚血性心疾患のため死去した 80歳 —産経電子版から― ノーマルヒルのフロストレール工事に携わった者として、大変お世話になりました 謹んでお悔やみ申し上げます(合掌)

          【連載】私たちは敵ではない(5)

          ・・・・朝が来た。  妹は、階下の物音で目が覚めた。横で息子はまだぐっすり寝ている。  着替えてから階下に下りた。すると、お袋が前掛けをして、朝ご飯の仕込をしていた。 「おはよう」と妹が朝の挨拶をお袋にした。お袋は、 「おはようございます」と、なぜかよそよそしい。   「お母さん、昨日兄貴から連絡を貰って、息子と二人で様子を見に来たよ。お母さん大丈夫なの」 「・・・・・・」 「あなた本当にお母さん?」 「・・・・・・・」 「もしかしてまた、狸なの? お母さんは何処なの」 「お

          【連載】私たちは敵ではない(5)

          【連載】私たちは敵ではない(4)

           妹と息子はありあわせの食材を冷蔵庫から見つけ、ご飯を炊いて食べた。  妹は旦那に今日は実家に泊まる旨連絡を入れた。旦那は明日お袋を連れて病院に行ったらどうかと提案してくれたが、明日の状態を診てから判断することにした。  遠く離れている兄に電話で助けを求め、帰ってくるなり布団を敷いて寝てしまったお袋の異常な行動に、妹もどうしたものかと悩むのであった。  その夜のこと  階下でなにやら騒がしい物音がした。  妹は息子と二階の部屋で寝ていたが、その物音で目がさめた。  お袋は

          【連載】私たちは敵ではない(4)

          【連載】私たちは敵ではない(3)

           ある金曜日の午後、携帯電話が鳴った。思いがけずお袋からだった。  お袋は田舎で独り住いだ。親父はすでに他界している。暫く忙しさにかこつけて連絡もしていなかった。  電話の向こうでお袋の声がする。聞き取りにくい。「・・・助けてくれ」と言っているような言葉であったが、そこで電話が切れた。以前、妹が緊急時用のため、お年寄り用の携帯電話機をお袋に持たせてくれていた。  早速妹に電話した。  お袋の只ならぬ様子を伝えて、実家に顔を出してもらうことにした。こういう時一緒に住んでいれば、

          【連載】私たちは敵ではない(3)

          【連載】私たちは敵ではない(2)

           次の日から仕事で汗を流した。会社の総務に席を置く私は、朝からバタバタと走り回った。  朝礼の準備やら蛍光管の球切れ対応やらと、小さい会社なので庶務的な仕事のほうが多い。休み明けの月曜日は特に何かと多忙である。  自分の机に向かいパソコンを操作し始めた。そこに一人の営業業務の人間から、「パソコンが起動しないから見て欲しい」との依頼が舞い込んできた。  早速エレベータで上部階へ行き、動作確認をした。すると、ウィルスに感染したようだ。直ちに操作を中止し、各部署へ連絡。契約してい

          【連載】私たちは敵ではない(2)

          【連載】私たちは敵ではない(1)

           三日間休暇をとり、私は日本から離れ、南の島に休暇に出かけた。    砂浜に寝そべり、抜けるような青空の下、きらめく太陽をいっぱいに受け、甲羅干しをした。湿気を含んだ風が赤みを帯びた体に纏わりつく。まもなくスコールがやってくるかもしれない。 ..................................  入社間もない頃、仕事で父島・母島のもっと先の硫黄島に行ったときのこと。  その島で働いていたある建築関連会社の人から、 「スコールがやってきたら石鹸をつけて体を洗え

          【連載】私たちは敵ではない(1)

          久しぶりに、飲んでいます。 本日、還らざるOB が終了し、飲めない酒を、美味しく楽しんでいます。 普段は、一切飲んでいませんが、 今日は飲みたい心境になり、来てしまいました。 次回、新しい連載にチャレンジします。

          久しぶりに、飲んでいます。 本日、還らざるOB が終了し、飲めない酒を、美味しく楽しんでいます。 普段は、一切飲んでいませんが、 今日は飲みたい心境になり、来てしまいました。 次回、新しい連載にチャレンジします。

          【連載】還らざるOB(5)

           五年ほど前、その会社の同じ部署の人間であった者同士がもう一度会って食事でもしようと声掛けをしたのが野森であった。  彼は仕事が忙しく、会社に泊まり込んでの徹夜仕事に身も心もぼろぼろ状態であった。そのとき、ふと思い立ち、連絡を取ってみた。  高円寺の居酒屋に集合したのが、野森と佐枝と新賀と田川と小平の五名であった。早速旅行の話題になった。  その年の秋、野森の自家用車を使って白樺湖に向かったが、田川は車の中でよく喋りまくった。同乗者は閉口し、そのうるささに勘弁してくれと言う

          【連載】還らざるOB(5)