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まだ見えない明日に

18歳の頃、地元を出た。
進学、というかたちだったけれど、実質的には、地元から逃げたのだ。
実家が嫌いだった。
学校生活にも、いい思い出はなかった。
そして、地元から遠くの地で、働きながら夜学に通っていた。
働いて自分のお金で夜学に行っている、という現実は、わたしに自信をつけてくれた。
わたしは一人前なんだ。
その頃は、そう思っていた。

きっかけは、26歳の頃の犯罪被害だ。
仕事から帰って、一人暮らしのアパートで眠っているところを、知らない男性に押し入られ、暴行を受けた。
その日を境に、わたしは狂った。

わたしは、当時働いていた職場から去り、夜学も退学した。
それでも、どうしても地元には戻りたくなかった。
けれど、事件のあとは、なんの仕事をしても続かなかった。
作業能力が低下して、職場のお荷物になった。
奇行が現れ、周囲に嫌われた。
こうしていろんな地域のいろんな仕事を転々として、事件から4年後、わたしは実家に戻り、精神科に通院するようになった。

わたしの病名は、統合失調症だ。
わたしは、幻聴、妄想を、薬でおさえているだけの狂人だ。
今でも地元は嫌いだ。
けれど、今のわたしは、他県に出ていき一人前の暮らしをしていく能力がない。
今でも家族を見返してやりたい。
けれど、今のわたしは、一人前に稼ぐことすらできない。

羽根をもがれた小鳥は、これからどう生きていくのだろうか。
牙を抜かれたライオンは、これからどう生きていくのだろうか。
医療、福祉にギリギリ生かされて、周囲の憐れみにギリギリ生かされて、今のわたしは、よく飼いならされた犬のようだ。

それでも、死にたくはない。
それでも、生きていたい。
なにかを生み出したい。
なにかを作り上げたい。
なにかを残したい。
それがたとえ、周りからは道端の小石にしか見えない、ほんのちっぽけなものでも。

だから、わたしはごはんをしっかり食べる。
だから、わたしは夜はぐっすり眠る。
そして、まだ見えない明日に、ささやかな希望を夢見て生きている。


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