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Podcast「東大生の米談義」#2振り返り

昨日、Podcast「東大生の米談義」#2を配信しました。
#2のテーマは農業経営基礎、CSV戦略とポジショニング、集中戦略でした。
最初は手探り、手が届かないところもあるかと思います。
回を重ねる中で修正していくために「振り返り」まで含めてPodcast「東大生の米談義」とします。


一言名言

今回の司会は林。今後、林の東大農学部の授業・ゼミ内容の配信と自分のお米のあれこれ配信を交互に行う。

#2は数学ヤクザと呼ばれる代々木ゼミナール講師の荻野先生の「能力低いと思ったら人より早く起きるんだよ」でスタート。

林と芳野は東大の野球部に所属している。部員数は優に100を超える競争の激しい集団の中で、人と差別化を図り、ある特定の分野に秀でることで評価を得、試合に出るその考え方は今日話すテーマであるビジネスにおける戦略でも共通する。
能力が劣っている、もしくは自分が頭一つ抜けるためには朝早く起きて人より早く動き出す必要があるという思いでこの言葉を選んだそう。

「これはどの世界でもそうで、特に僕らの母校は人と違っていたいという感じの人が多いと感じる」と事前の簡単な打ち合わせの時に話していた。

人と違うことを恐れる人が大半を占める世の中で、こういう人に囲まれてきたのはとても恵まれていることだと感じる。
偉大なファッションデザイナー、ココ・シャネルは「かけがえのない人になりたいのなら人と違っていなければいけない。」と言い、Amazonの共同創設者であるジェフ・ベゾスは「イノベーションを実行するのであれば、誤解されることさえ積極的であるべきだ。」と言う。

差別化を図る中で白い目で見られることや怪訝な眼差しを向けられることも少なくないだろうが、人より早く起き、人より多くに挑戦することでより多くを学び、偉大な功績を残すために走り続けよう。


ゼミ課題図書「世界は経営でできている。」

①経営とは

「世界は経営でできている。」は岩尾俊兵さんの著書。林が所属している木南先生のゼミで扱っている本で生活の至る所に経営を実践する場面があると主張する。

本書によると経営とは「価値創造を通じて対立を解消しながら人間の共同体を作り上げる知恵と実践」である。

Podcastでは、家庭でも経営のスキルていうのは生きてくるとし、例えば夫婦間のコップについてを取り上げている。

妻は夫が飲み差しのコップを放置することが理解できない一方、夫はどうせ後でまた飲むんだからそのことについてとやかく言われるのが納得できない。しかしここで両者に共通する思いは「家ではリラックスして過ごしたい」でありそこに対立はない。

この両者に共通する願いを解決する様々な策が経営/ビジネスである、というのが本書の主張。


②CSV戦略とマーケティングの変遷

CSVとはcreating shared value (=共有価値の創造)の略で、社会が必要としていることや抱えてる問題に取り組むことで社会的価値を創造して、同時に経済的価値が創造されるというアプローチ。

要は社会課題を解決すると企業の成長につながるという考え方だが、従来経済的価値の追求と社会的価値の追求は相反すると考えられていた。

ここで補足として取り上げたのが「マーケティングコンセプトの変遷」。中小企業診断士という国内唯一の経営国家資格の勉強をしている中で学んだ概念である。ただ少し話しすぎたと反省。4人でテンポよく話している時が一番聞いてて楽しいと感じたので、次回はラリーを増やしてみたい。

一言で言うと「売れる仕組みを作ること」であるマーケティングはこれまでざっくり3段階に分かれて進歩してきたそう。

マーケティング1.0は製品中心のマーケティングで、生産した製品すべてを潜在的消費者に売り込むことを志向し、「企業がよいと思うものを作る」や「作ったものを売る」という主に企業側のニーズに焦点を当てる「内から外」への展望である。プロダクトアウト、製品志向とも言われ4P分析等が代表。

マーケティング2.0は消費者中心のマーケティングで、消費者は十分な情報を有し類似製品との比較も容易であるとして、主に消費者側のニーズに焦点を当て、標的市場が求める製品を作ることを志向する「外から内」への展望である。マーケットイン、消費者志向とも言われSTP分析等が代表。

マーケティング3.0とは、消費者を単に消費者としてみなすのではなく、世界をより良い場所にしたいという想いを有した存在、自らの中にある社会的、経済的、環境的公正さに対する欲求に対し、ミッションやビジョンや価値で対応しようとしている企業を選好する存在として捉えるのである。社会志向、価値志向とも言われ3iモデル等が代表。

つまりCSV戦略は、マーケティングコンセプトの変遷に対応し現代(3.0)において「売れる仕組みを作る」戦略として考えることができる。社会的価値の実現と経済的価値の実現が同時に達成されるようになったのである。

これまで小中学校で環境問題について考える授業があっても、振り返りシートの「自分ができることは何か」という問いに「それぞれが意識を持って活動する」という抽象的な回答しか見られなかったが、例えば「脱炭素を志向する商品の購入割合を増やす」という踏み込んだ回答を見る日も近いのではないか。
※マーケティング4.0についてはまた機会があれば触れたい。


③お米のCSV

では実際、自身が経営する会社ではどんな社会的価値を追求するのかというと「日本米を世界へ」「お米主導の脱炭素社会へ」である。

一つ目はそもそもビジネスチックな価値であるが、日本米が世界で売れるような環境を作ることで生産環境を改善し、フードロスや継ぎ手不足、食糧安全保障など様々な問題が解決されることを望むものである。

二つ目は農業由来のカーボンクレジット取り組みの推進や、お米を使った脱炭素貢献商品の販売拡大などを通じての、お米主導の脱炭素社会の実現である。

水田土壌由来のメタンは日本の人為起源メタン発生量の約 30 %を占めることから重要な温室効果ガス発生源とされ、J-クレジットというCO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度によりその削減が目指されている。令和5年3月1日には、J-クレジットにおいて「水稲栽培による中干し期間の延長」が新たな方法論として承認されたと農水省からプレスリリースが出され、ここ1年で見聞きする機会も増えている。

平成24年に発表された実証研究結果の中では、試験水田での2年間の実証試験では、稲わらなどの有機物を施用した水田では通常より中干し期間を3日から1週間程度延長することで、コメ収量への影響を抑えながらメタン発生量を相当程度 (14~58%、平均30%) 削減できることがわかったそうだ。(農業環境技術研究所 2012)

ただ、近年の異常気象を鑑みると中干し期間の延長でイネの障害が発生しやすくなり、出穂以降の追肥や農薬の使用回数が増え薬剤の製造や散布で温室効果ガスの排出量の増加にかえって繋がるのではないかという指摘も見られるため、注意深く動向を追う必要がありそうだ。

ちなみにPodcastの中ではJ-クレジット制度の登録業者はFaegerとGreen Carbonを挙げたが、畑作と稲作の両方を手がける世界有数の農業機械メーカー「クボタ」も参入している。


農業経営の基礎知識

①お米ポジショニング

次のトピックは農業経営の基礎知識として、ポジショニングについてである。ポジショニングの軸を決めてどこで差別化するかという点で、低コストやハイブランド等が挙げられた。

松坂牛とスーパーの安価なお肉や、高品質で高単価を目指す場合が多いイチゴなどを例にあげ、米でもそのような事例はあるのかといった話題になった。

Podcastでは自信を持って「ある」と回答した。つまりお米という大きな市場の中で、どの分野で事業を推進するかと言うことである。Podcastでは、特にユニークに市場を切り分けた「品質」「利便性」「ネーミング」でのポジショニングを取り上げている。

はじめに、良食味や異常気象への耐性等の普通のコシヒカリとは違う商品を志向するブランド米開発ブームを紹介した上で、突然変異で生まれた龍の瞳をはじめに説明した。龍の瞳(品種としてはいのちの壱)を発見した今井隆さんは本も出版され、品質で大きく差別化したポジショニングが行われた好例である。

次に、二期作・三期作の行われる沖縄県の「日本で最も早い新米」と、ネーミングによるマーケティングに成功している長野県のコシヒカリ「幻の米」をポジショニングの適例として紹介した。

ちなみに田植えのニュースが世間を賑わす中、石垣島では2024年5月17日から精米作業をスタートさせるということで、2024年5月末には県内のスーパーなどの店頭に日本一早い超早場米がお目見えするそうだ。


②競争戦略-お米ニッチトップ

次に競争戦略について説明があった。経営をする上では、事業領域(ドメインとも言う)を選定するポジショニングを行い、特定の製品市場で事業を遂行することを決定した後には、その市場において勝ち残るための「競争戦略」の重要性が強調される。

競争戦略には主に「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の3つがあるが、コストリーダーシップと差別化は直感的に理解できるとしてPodcast内では集中戦略に焦点を当てた。

補足しておくと、例えばお米という大きな業界の中で「品質」で戦うポジショニングを行なった後に、その中でも低コストでの生産を志すのがコストリーダーシップ戦略で、ギフト用など他と違う売り方などを志すのが差別化戦略である。中小企業診断士の資格勉強の中ではスタックインザミドルと言われる「様々な戦略を実行しようとして中途半端になるケース」への注意喚起も存在する。

これら戦略は当然意識的に行うことで他企業を一歩リードできる可能性を高めるが、それぞれにデメリットも存在するためやみくもに実行すればいいわけではないことを先に述べておく。

本題に戻ると、集中戦略とは市場全体を対象とするのではなく、独自の狭い市場を対象として集中的に投資を行うこと。ファストフードといえばマクドナルドだが、フライドチキンと言えばケンタッキーという、よりニッチな市場のトップを狙う戦略のことである。

スタートアップがTAM(Total Addressable Market)という全体の市場規模に囚われ過ぎているという論調は珍しいものではない。挑んだ市場が大き過ぎて失敗するケースは往々にして見られる。そこでこの「集中戦略」なのである。

農業においても特定の品種だけを生産してそこに全リソースを割いてその小さなマーケットの大部分を取りに行くという事例は多い。今回登場したOishii Farmも、その本質的成功の理由はさておき、高単価高品質のイチゴを自動栽培するという一見小さく見えるマーケットに集中的に投資を行い、次第にそれをマスマーケットに向けて拡大する戦略を取っている。

「Think big, but start small」はどの分野においても鉄則であることは間違いない。


ここまで読んでいただきありがとうございます!
東大農経の林と交互にメインスピーカーを担う予定で、来週は当社アドバイザーの方からの最新の日本米市場の分析を中心に配信予定です!
次回もお楽しみに!

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