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時代を切り裂け!!『無罪モラトリアム』

 この国を代表する女性ヴォーカル・椎名林檎のデビュー作であり最高傑作であるこのアルバムは、清潔さと卑猥さ、安心感と焦燥感、抒情と発狂、理論とユーモア、老成による達観と若さによる無鉄砲の共存したカオス極まる大名盤となっている。歌詞も歌唱もミックスも、現在椎名林檎が在籍している無敵の実力派バンド東京事変と比較すればそれはもうむちゃくちゃであるが、その頃の彼女にしかできなかった表現が前面に出された圧巻の一枚だ。

 収録曲全てが高校時代からメジャーデビューまでの10代の間に書き上げられた作品というのだから同年代として驚きを隠せない。当時女性としては考えられなかった異常な声質とその使い方や、ジャズ・ロック・バラードなどの多様な音楽ジャンルを跨いだ統一感の無さはそれまでに前例がなく、邦楽の既成概念をぶっ壊し、彼女の天賦の才とエネルギーで全く新しい日本の音楽の景色を切り拓いていくこととなった。

 僕も最初は特徴的な声と普段聴き慣れない曲風から「歌舞伎町の女王」くらいしかまともに聴いていなかったが、高3のある日突然1曲目の「正しい街」のかっこよさと切なさに衝撃を受け、それから数週間このアルバムしか聴くことができない日々が続いた。今でも当時のテンションの上がり方は色褪せることなく、鮮明に記憶に残っている。

 本当に、もれなく全ての収録曲が最高にかっこよくて感動的で、このアルバムを聴く度に冗談抜きで必ず鳥肌が立つ。「幸福論」「警告」は誰よりもロックだし、「歌舞伎町の女王」「丸の内サディスティック」はどこにいてもグルーヴィーで、「茜さす帰路照らされど」「同じ夜」はいつだって心の琴線に触れる。どこで紹介しても恥ずかしくない、無敵鉄壁の一枚です。皆様も人生で一度は、抜け出せない椎名林檎沼に引き摺り込まれてみては。。

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