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【ショートショート】信州女と青森男 ~買い物編~

これは信州出身の女性と青森出身の男性が紡ぎ出す、小さな物語である。
 
二人で観光地に出かけた時のこと。雑貨屋で物色していたが、通りを挟んだ向かい側の店に人だかりが出来ている事に気付いた女。

何事かと見てみると、好物の唐辛子煎餅が半額セールされているではありませんか!
 
しかし、今は雑貨屋でレジ待ちをしている状態。そこで、女は男に頼むことにする。
 
女「ちょっと! まえでの店にとんでって、セール品勝ってきてくれない?」
 
しかし、男には何を言っているのかわからなかった。

男「は?」
 
女「だ・か・ら! まえでの店に早くとんでってよ!」

女の苛立ちに、これ以上の質問はダメだと理解する男。自ら考え、行動しようとする。
 
男(とんでくは多分『行け』という意味だろう。だが、まえで、まえで・・・)

向かい側を見ると、女の指さす方角に『乾物・まえだ』の看板があった。
 
男(なるほど、あれか・・・。乾物屋とは渋いな。)

そして男は乾物屋に向かい、店に置かれた品々を見る。
 
すると、そこへレジを終えた女が、まさに飛ぶように男の元に駆け寄りダメ出しをする。

女「何やってるの! 隣の店でしょう!」

慌てて煎餅屋に行くと、お目当ての唐辛子煎餅には『売り切れ』の札が掲げられていた・・・。
 
この後男は暫くの間、ねちねちと小言を言われるのであった。

おわり


まえで・・・前、の意。前での店とは『前の店』を指す。(信州の方言)
とんでく・・・走っていく(急いで行く)、の意。(信州の一部地域の方言)


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