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日本の尊敬語、韓国の尊敬語

ご無沙汰です。韓国に留学中のもちうさぎです。

今回は日本語と韓国語の尊敬語の感覚の違いについて筆者が感じたままに発信します。日韓バイリンガルの方や韓国コンテンツ好きの方に共感していただけると嬉しいです。

結論から言うと、日本語の尊敬語と韓国語の尊敬語とでは以下の3点が異なると感じます。

1. 尊敬する対象の範囲 
2. 尊敬するTPO
3. 尊敬に要する文字数

順に解説します。


1. 尊敬する対象の範囲


両親

「この後私のご両親と食事の予定なんです」

日本語でこう言うと間違いです。本来謙譲して表現するべき自らの親族に尊敬の呼称を用いるのは不適切だからです。

"나중에 제 부모님이랑 식사할 예정이 있어요"
najunge je bumonimirang siksahal yejeongi isseoyo
(直訳:これから私のご両親と食事なのです)

一方、韓国語においてこちらは正解です。韓国では他人に対し自らの両親の話をする際、「ご両親」の意味である부모님(bu mo nim)を使います。分解すると、부모(父母)+님(様)です。最近減ってきているとも聞きますが、韓国では子供に対し家庭内でも敬語(尊敬語)を使うように教える両親も珍しくないようです。

年下

(初回授業にて、上級生から下級生に)
「1年生でいらっしゃいますか?」

日本でこう言うと重苦しいですよね。「1年生ですか?」「1年生の方ですか?」くらいがちょうど良いでしょう。

"1학년이신가요?"
il haknyeonisingayo?
(直訳:1年生でいらっしゃいますか?)
一方、韓国語においてこちらは正解です。韓国語においては、初対面であれば年齢の上下に関係なく

N(이)시다 (Nでいらっしゃる)
N (i) sida
V하시다 (Vされる)
V hasida

を用いて相手のことを表現するのが基本です。
~~님이세요?/ 수강신청 이미 하셨어요?/ 엄청 잘생기셔서 …/ 그렇게 하셔야 될 것 같아요 などなど…。시다/하시다が反射で出てくるまで練習をすれば、より一層韓国語と仲良しになれるのではないでしょうか。

2. 尊敬するTPO

HIPHOP

先日、秋の大学祭にてヒップホップサークルのパフォーマンスを見る機会がありました。当大学の学生には珍しい金髪頭にニット帽、ぶかぶかの黒いカーゴパンツ、チェーン、MIYACHIを彷彿とさせる音域一定な発声にタイトなフロウ、雰囲気的におそらくトゲトゲのリリック。どこからどう見ても「不良」という装いのイケイケラッパーが曲を終えた瞬間、放った一言:

감사합니다!! ~~~~~어,, 진짜 할 말이 너무 많은데요,,, 저는 랩으로 들려 드리겠습니다! 음악 주세욧! 
(訳:ありがとうございます!!いや〜、、言いたい言葉、本当はめちゃくちゃあるんすけど、、(息切れている)私はラップでお聞かせ致します!!Drop the beat)

こちら正確には尊敬語ではなく謙譲語の例ですが、BADSAIKUSHや呂布カルマのようなオラオラMCに慣れている私は
「お聞かせいたします、、??そのファッションとリリックで、、MCは謙譲語なんか〜〜〜い!」
と驚きを隠しきれませんでした。

ここまで読んでお気づきかと思いますが、日韓で異なるのは尊敬や謙譲という感覚自体の捉え方というよりも尊敬語、謙譲語を使うハードルのようです。日本で「ラップでお聞かせいたします!!」だと少しフロアが冷めてしまうような気もしますが、韓国の場合들려 드리겠습니다!!でも全く問題なくブチ上がるということです。

私はあくまで「日韓では、同じ礼節(あるいはバイブス)を表現するために適量な尊敬語の投入量が異なる」という理解をしています。

他にも授業のグループチャットやコンビニの店員さんとのやりとりなど、日本では丁寧語のみでも自然なTPOにおいて韓国では尊敬/謙譲の表現を用いることがスタンダートという場面が非常に多いと感じました。日本人が韓国語を用いる際には、日本の感覚×1.5倍のテンションで尊敬マシマシ、謙譲トッピング追加くらいでちょうど良いのではないでしょうか。

※冒頭の例においては学校祭というイベントの特性上、多様な観客を想定し通常のHIP HOPシーンよりは一段と丁寧なMCになっていたという可能性もあります。

3. 尊敬に要する文字数

これまで、韓国語は日本語よりも尊敬語を使う対象、TPOが幅広いことを確認しました。当然、筆者も韓国語を用いる際には韓国基準で尊敬語を用います。しかしそれほど負担には感じず、尊敬語のせいで噛むということもほとんどありません。その理由は、韓国語においては尊敬表現に要する文字数(あるいは音節数)が日本語より少なく、尊敬表現への切り替えが発音的にも容易であるからではないでしょうか。

具体的には、ある文章において
尊敬表現の文字数/尊敬なしの表現の文字数
の値(以下「尊敬倍数」と名付けます)を設定した場合、平均的に韓国語<日本語となるのではないかと思います。

例えばwhat's your name?という意味の文章の場合

日本語の尊敬倍数
=尊敬表現の文字数/尊敬なしの表現の文字数
=「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」の文字数/「名前は何ですか?」の文字数
=19/7
=2.71

韓国語の尊敬倍数
=尊敬表現の文字数/尊敬なしの表現の文字数
="성함이 어떻게 되시나요?"の文字数/"이름이 뭐에요?"の文字数
=10/6
=1.67

結果:韓国語の尊敬倍数(1.67)<日本語の尊敬倍数(2.71)

次に、could you show me the next slide?という意味の文章の場合

日本語の尊敬倍数
=尊敬表現の文字数/尊敬なしの表現の文字数
=「次のスライドを見せていただけますでしょうか」の文字数/「次のスライド見せてもらえます?」の文字数
=17/14
=1.5

韓国語の尊敬倍数
=尊敬表現の文字数/尊敬なしの表現の文字数
="다음 페이지 보여주시겠어요?"の文字数/"다음 페이지 보여줘요?"の文字数
=12/9
=1.33

結果:韓国語の尊敬倍数(1.33)<日本語の尊敬倍数(1.5)

2回目の結果は少し微妙ですが、言いたいことは韓国語は日本語と比べ尊敬表現が短く済むのではないかということです。単に、日本語の尊敬語で避けては通れない「いただく」という言葉の発音が噛みやすく、韓国語はそれが無い分少し口が回りやすいのかもしれません。日本語ほどパキパキ発音しなくても良いというか、、英語のように流れる感じで発音しやすいというか、、私はまだまだ学習者ながらそんな感覚を持っています。


以上、日本語の尊敬語と韓国語の尊敬語について
1. 尊敬する対象と範囲
2. 尊敬するTPO
3. 尊敬に要する文字数
という3つの観点からお話ししました。

終わりに

日本語と韓国語。

それは時として兄弟のように近しい存在に感じられ、また時として永遠に交わることの無いパラレルワールドのようにも感じられます。近いからこそ学びやすく、近すぎるからこそ少しでも油断をすると日本語の感覚が邪魔をし「日本人の韓国語」から抜け出せない。万年中級の感覚。ある程度真剣に韓国語を学んだことのある方には共感していただけるのではないでしょうか。

しかし、簡単では無いからこそ時間をかけて思考する楽しみ・言語化する楽しみがあるというのも事実です。言葉を学ぶのは楽しいですね。

それではまた!



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