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海外で出会う日本語

寿司テイクアウト店と回転寿司レストランの二足の寿司草鞋生活を始めてから7週間目になる。

働き始めの頃と比べて、ローラーとしては手早く綺麗な巻き寿司を作れるように、そしてフロントオブハウスとしてはほぼ満席の時でもトラブルがなければ(ここが重要)2名でなんとか捌けるぐらいには動けるようになってきたような気がする。

午後に働いている回転寿司レストランがアホほど忙しくて大変、というのはどうやら私だけの感想ではないらしく、自分が働き始めてからトライアルに来た人がすでに2名ほど「自分には無理です」と辞退していった。
実際私もトライアル初日は帰りのバスで思わず涙してしまうほどしんどかったのだが、その時は「お金を稼ぎたい」が「しんどい」をギリ上回っていたため、なんとか食らいついてここまで来てしまった。人間引き際も肝心である。

さて、働く側のしんどさはさておき、お客さんとして来る分にはこのレストランはなかなか魅力ある店として認識されているようだ。実際、ランチの時間帯は週に何度も来るようなリピーターも少なくない。

メニューも寿司だけに留まらず、うどんやコロッケ、さらには鰻丼まである充実ぶりである。もはや寿司レストランではなく総合日本食レストランと言っても差し支えないかもしれない。

Sushi(寿司)が今となっては英語としても通じるほど知名度を持った言葉になっている、というのは割と有名な話だが、このレストランではその他のメニューもかなり攻めたラインまで日本語のまま使われているのが面白い。

そこで今回は、勤務先のメニュー上で強気に使われている日本語の中から個人的なお気に入りトップ5を紹介したいと思う。

第5位 Teriyaki(照り焼き)
この単語はなぜか海外でもかなり浸透していて、近所のスーパーでも「Teriyaki sauce」なるものが手に入る。テリヤキチキンはこちらでもかなりの人気メニューだ。
しかし、夫は、「Teriyaki」という単語が海外で得ている知名度は照り焼き自身の身の丈に合っていないと感じているらしく、いつも謎に当たりが強い。単語として気に入っているというよりかは、「いち調理方法の分際で生意気だ!」といつもは優しいのに何故か照り焼きにだけかなり厳しい態度を取る夫が面白いという理由でランクインさせてみた。

第4位 Uni(ウニ)
ウニは英語でUrchinだが、何故か一部のメニューではそのまま「Uni」と表記されている。
働く側の人間であっても日本人は少数派なので(勤務先のスタッフはベトナム人、ネパール人、中国人、そしてオーストラリア人など割と多国籍なメンバーで構成されている)、なかなか厳しいのでは?と思ってしまうが、みんな普通に受け入れて働いていてすごいなと思う。私がもしベトナム料理屋で働いていて同じことをされたらたまらない。ちなみに、「Unagi」「Tako」といった単語も同様に「当然分かるよなァ?!」と言わんばかりの勢いでメニュー名に堂々登場している。いや、分からんだろ!

第3位 Tamago(たまご)
ここでの「Tamago」は日本の卵焼きのことを指す。トライアル初日、「Tamago」と「Tomato」の発音がほぼ同一で聞き取りに苦戦した懐かしい記憶がある。メニューに堂々と「Tamago roll」と書いているが、普通に「タマゴって何?」と聞かれることがよくあるので、素直に「Japanese omelette」とかにしてあげた方が親切なのでは…と思わないこともない。しかしここでも同様に、お客さんには思いの外普通に受け入れられている。

第2位 Nigiri(握り)
働き始めのとき、お客さんに「ナァイギィリ」をくれと言われて何かと思ったら「Nigiri」のことだった。たしかに英語として読もうとするとその方が自然かも知れない。
最近気付いたことだが、こちらでSushiというとハンドサイズの細めの巻き寿司を想像する人が多いようで、そこの区別をはっきりとさせるために「Nigiri」「Maki(もしくはRoll)」という名称を使用しているようだ。とはいえ「握り」をそのまま英語話者にぶつけるのはかなりの強硬策のような気もする。

第1位 Karaage(唐揚げ)
お客さんから「カラージュチキンがメニューにないんだけど」と言われた際、「え、カラージュって何すか………あ、もしかして唐揚げ?!」と気付くまでに5秒ほどかかった。
「カラージュ」のフランス料理を想起させるような優雅な響きに反して、実際に出てくるのはビールに良く合う茶色いアイツだと思うと、そのギャップが壮絶で気に入っている。ちなみに、このレストランではカラージュ・チキン(鶏の唐揚げ)とカラージュ・オクトパス(蛸の唐揚げ)を取り扱っている。

以上が「Sushi」に追いつけ追い越せと英語としての知名度向上を図っている日本語の皆さんの紹介であった。

余談だが、この間通勤の車の中で「J-POP NOW」を聴いていたとき、シャッフル再生で流れてきたスピッツの「美しい鰭」という曲の「鰭」の読み方がどうしても分からなかった(正解は「ひれ」)。
夫婦2人で熟考の末、最終的に「うつくしい………すし……?」と読む有様である。

ホバートの寿司ビジネスに身を置くにあたり、日本語ネイティブとしてのアドバンテージが消えるのも時間の問題かも知れない。

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