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あのこのゆくえ

 彼について記録するのは3回目であり、これが最後だ(と祈る)。

 先日メッセージで”たぶんあなたのことちゃんとしっかり好きになってしまった”と伝えた。彼はめちゃくちゃ嬉しいと言うだけで、世界中の乙女が求める答えは与えてくれなかった。
 
 この曖昧な関係に名前が欲しかった。疑うくせに期待はやめられないからいつも勝手に裏切られた気持ちになる。馬鹿かよ。

 ちゃんとあって話そう、と最後はきれいに終わらせようとするの何なんだろう。恋人と別れるたびに思う。会うと余計につらくなるのにね。真面目なのかよくわからない彼も会いにきた。

 気まずかったわたしたちは、彼に貸していた短歌集の話をした。

君という紙飛行機に与えたい遠く飛ばないための折り目を

あなたのための短歌集/木下龍也

 彼が挙げたいくつかのお気に入りの短歌の中のひとつ。彼が帰った翌朝なんとなく本を広げると、栞紐はこのページにあった。ここで彼が想像した”君”は東京にいる彼女ではなくわたしのことだといいなと本気で思ってしまった。

 彼にはいま離れているだけで、ちゃんと恋人がいた。そしてあの夜、わたしにすべてを語った。真実を伝えると離れられそうで、彼の中で葛藤があったらしい。ほらね、ラインで伝えてくれたらそれでよかったのに。惨めだ。馬鹿野郎。

 彼は続けた。好意がなければこんなにも会っていないし、でも付き合うことはできない。友達では居られないのか。彼の言葉が矢となり、わたしのたるんだ身体に貫通した。

 わたしは強いオンナだ。だから最後まで口を出さずに一言一句矢を全身で受け止めた。そしてもう会わないこと、これまで楽しかったこと、感謝まで伝えた。ああなんて強いオンナ。(本当は矢が刺さってしっかり苦しい)

 復縁を約束した彼女がいることには少し驚いたが、会わない選択を近々自分自身がするだろうとなんとなく思っていた。("なんとなく"以外の部分は期待で埋めていたのでやっぱり苦しい)

 長年付き合った以前の彼氏と別れて以降、孤独と向き合えていない自分を見つけた。寂しさは他人で埋まらないことにやっと気づいた。

 東京の彼女にとっても、わたしにとっても?(星)クズでしがない彼が居たからこそ気付けたのだと無理やり思うことにした。

 彼はわたしの性格のアノ部分が好きだと言った。これからもこのままでいて欲しいと。貴方といると居心地が良くて素直な自分でいられたんだよバーカという言葉は悔しかったので、伝えてあげなかった。

 最後を惜しんで遠回りする彼。やっぱり見えなくなるまで後ろ向きで帰っていた。振り向かないでおこうと決めたのに、なんとなく見てると思ったから振り返った。
 
 やっぱりズルい男だった。おわり
 
 

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