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9:空腹は他ごとで気を紛らわすなんて、ぽっちゃりには不可能

お腹が空いたなら、他ごとをして空腹感を紛らわせばいい。

痩せている人からこのアドバイスをされたぽっちゃりは、そんな芸当ができたら今ごろ太っているわけがないという言葉をフレンチトーストと一緒に飲み込んで、ダメもとで一応やってみます。

ああ、お腹が空いたなあ。
よし、気を紛らわすために本でも読もう。

部屋の片隅に積んであった読みかけの本に手を伸ばし、ページを開いて読むこと10分。

なんだか、余計にお腹が空いた気がする。
本を読んで頭を使ったせいで、脳みそが山のように糖分を欲している。

本を閉じたぽっちゃりは、大急ぎで4枚切りの食パンにチョコレートとマシュマロを乗せ、トースターで5分焼いて熱々のそれにかぶりつきます。

本を読むのは逆効果だ。
なら、次は映画を観よう。

ソファーに寝転がり、なんの映画が配信されているのかチェック。
これに決めた!と再生して、画面を眺めること5分。

ポップコーンと、コーラが欲しい。

映画は一旦停止、家に常備してあるフライパンで作るタイプのポップコーンを食料棚から引っ張り出し、いつもより多めのバターを投入。

ガスコンロに火をつけ、カチカチのコーンをポップさせ、熱々のバターたっぷりポップコーンをお皿に盛り付ける。

この贅沢なできたてポップコーンがたまらないのよ、とコーラ片手に映画を楽しみ、充実した時間を過ごしてあとで後悔。

だめだ、空腹感が紛れない。
かくなる上は暇なアイツと話すしかない。

恋人でも友達でも、誰でもいいからわたしの空腹を紛らわすために話し相手になってくれ。

LINEの通話ボタンをタップ、暇なアイツはいつものように電話に出る。
これで空腹との戦いは勝ちだ。

そう思って話すこと2分、気づけばチョコレートに手が伸びていて……。

ああもうだめ、話すのは楽しいけれどお腹が空く。
時間を忘れてできることをしなきゃ。

そうだ、SNSを見て時間を潰そう。

この選択が最大の間違いだと、ぽっちゃりはまだ気づいていません。

ぽっちゃりのフォローしている相手は『美味しそうなスイーツ』『大食い』『罪悪メシ』の3連コンボ。

盛大に飯テロリストたちの襲撃を食らったぽっちゃりは、この中でも比較的かんたんにマネできそうな罪悪メシをチョイスし、冷蔵庫の中身をすべて駆使して高カロリーな間食を作り上げてしまうのです。

こうしてぽっちゃりは、痩せている人に「他ごとで気を紛らわそうとしたけどダメだった」と報告。

痩せている人は少し頭を悩ませてこう言います。

「じゃあ、ガム噛んだり、歯を磨いて食欲なくしたり、炭酸水飲んだり、軽い運動でもしたら?」

それに対してぽっちゃりは、ため息をついてこう言うのです。

「それもう全部やった。でもダメだった」と。

痩せている人はもうお手上げ。
最後にこんな爆弾を落として、話を締めようとします。

「でもさ、そもそも空腹って気持ちいいし、紛らわせる必要なんてないじゃん」

ぽっちゃりにとっては永遠にわからない感覚「空腹は気持ちいい」を引き合いに出されたら、ここから先は百年話しても得られるものは何もありません。

痩せている人にアドバイスを求めることそのものが、根本的に間違っているのですから。

ただ、ぽっちゃりでもダイエットを進めるうちに少食に慣れ、空腹を他ごとで紛らわせたり、空腹を気持ちいいと思うことはできるようになるそうです。

80キロの特盛ぽっちゃりのわたしには、その境地は夢のまた夢ですけれど。

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