ＩＴ🎈 Chapter1、Chapter2考察メモ～エディ・カスプブラク編

この記事では、ITの登場人物のうちエディ・カスプブラクについての考察を執筆します。最初の記事、および分岐はこちらのページをご参照ください。

🎈エディ・カスプブラクとは

エディ・カスプブラクは喘息持ちで、過敏なほどに病気や怪我を恐れている少年です。小柄ながらも威勢がよく、早口で罵声を交えながら喋ります。彼は母親に過保護に育てられていて、禁止されていることもたくさんあります。Chapter2でも、母親に似た妻に行動を制御されていました。

🎈エディ：子ども時代

エディは、アイデンティティに母親の存在があります。彼の母親は過保護、というより過干渉で、遊ぶ場所を制限したり（エディが守っているわけではなさそうですが）、外出前のキスを義務付けたりしてします。

そのため、エディは子どもであるという被支配性、または周辺性を強く背負っています。デリーではだいたいの大人は支配的ですが、エディ（とベヴとヘンリー）の親子関係にはそれが顕著にみられるのです。

ところで、エディ、ベヴ、ヘンリーの「虐待する親」は、全員怪しい教育番組のようなテレビを見ているという共通点があります。これはおそらくペニーワイズによる洗脳で、子どもの自由を奪う行為を促し、意思の無い子どもにし、ペニーワイズが襲いやすくなる仕掛けなんじゃないかと思います。ご苦労様ですね。

ベヴやヘンリーと違うのは、エディは直接虐待されているわけでなく、母性によって守られ、自由を奪われているという点です。エディのママは、病気や怪我といった脅威を刷り込むことで、「脅威から守ることができるのは母親と、母親が与える薬しかない」という暗示をかけているのです。
つまり、エディが弱者でルーザーズなのは、母親の刷り込みで「プラシーボ」によるものなのです。母親と薬は、エディという人間の一部なのです。また、エディの母親にとって、エディは子どもであり旦那、恋人で、母親にとってもエディが自分の一部なのでしょう。
とはいえ、健康や病気に敏感な人が不健康に太っているのは、説得力が無いというものです。

そうした家庭環境での支配があるからか、エディはルーザーズの中ではよく喋り、自分の意見を遠慮なく言います。不安要素も進んで口に出し、周りと共有することで解決を図る、もしくは回避しようとします。リッチーとは逆に、純真無垢に思ったことを口に出すタイプなのです。これはルーザーズへの信頼の証とも言えるでしょう。また、家で支配的な母親の生活に比べ、ルーザーズと一緒にいるほうがよっぽど家族らしいのかもしれません。Chapter1でペニーワイズ討伐の前に、母親への反抗の言葉からもわかりますが、ルーザーズは自分を守ってくれる存在と認め、ルーザーズに愛と疑似家族を求めていると言えます。

子どもエディの特徴的なモチーフのひとつは、LOVERギプスです。アメリカでは怪我をした時のギプスに、友達から寄せ書きされる習慣があるようですが、怪我がきっかけでルーザーズと疎遠になっていたエディは薬局の娘・グレッタにLOSERと書かれてしまいます。それをエディ自ら一文字直してLOVERとした、というわけです。
そういう習慣があるということは、ギプスに書かれていること＝書かれた子の交友関係と客観的に見られます。しかしLOVERって恋人って意味ですから、友達からの寄せ書きでは愛が深すぎるし、誰かに見られたときLOSERよりかえって恥ずかしいんじゃないのかな、と思います。

しかしこの時、エディはルーザーズと疎遠になっていたことを考えると、友達が恋しくてそう書いたのかもしれません。エディのルーザーズへの深い愛が感じられます。ルーザーズから書かれていることを想像しているのかも、と考えると、ルーザーズのメンバーに友情以上のものを求めていたとも考えられます。それも、母親からの愛にうんざりしていたからかもしれませんが、同時に母親的な役割（自分を守る役割）をルーザーズに求めていたとも言えます。

また、血の誓いのときにギプスのほうでリッチーと手を繋いでいるのは、演出として意図的であると思います（詳しくはリッチーの記事を参照）。推測ですが、エディも無自覚ながらもリッチーへ特別な思いを持っていたのかもしれません。

ところで、Chapter1で、薬局で包帯を買ったことがバレるだけで全身検査にかけられる、というエディのセリフがありますので、病院にも頻繁に連れて行かれていたはずです。Chapter1でベンの手当てをしたり、Chapter2の中華料理屋で、医者を目指していたことがほのめかされるなど、自分の治療をしてくれていた医者という職業に憧れを持っていたみたいで可愛いらしいですね。

🎈エディ：大人時代

大人になったエディはリスクアナリストという職業です。日本ではあまり馴染みのない職業ですが、顧客は大手の保険会社のようですから、少なからず稼げる職業のようです。不安要素を周りと共有し、解消または回避しようとする性質がよく反映されているお仕事だと思います。

ついでに、これはかなり推測ですが、彼は少し見栄を張るタイプにも見えます。車はキャデラックで、いい車に乗っていますし（ルーザーズだいたいそうなんですが）、いい時計を付けていると自分から言っている描写もありました。

そんなエディがママとの関係を絶てたかというと、そうではありません。母親のソニアは2016年以前に亡くなったようですが、入れ替わるようにマイラという奥様が母親のポジションになっています。マイラは演じている方がソニアと同一人物であることからわかるように、母親に見た目も中身もそっくりな女性です。

ではなぜ、母親と同居ではなく、そっくりの奥様を大人になったエディのパートナーとしたのでしょうか。色々な理由があると思いますが、1つにはエディの女性関係があると思います。エディの人格はママに作られ、エディを上回る神経質さが無いと付き合えない、ということだと私は思います。女性から見たら、マザコンでいつでもママ優先、料理にもアレルギーがどうのと口を出す、潔癖症、そんな人と付き合える人って少ないと思います。
じゃあ独身でもいいじゃないかと思いますが、エディは守ってくれる存在(＝ママ、薬)が不可欠であるという自己暗示が続いているので、1人ではいられないのです。Chapter2の、ペニーワイズの巣の手前では、自信を失ったエディを奮い立たせるのはリッチーで、最後は守られる立場を克服します。

エディの女性関係に関しては、ベヴと、ベヴをいじめていたグレッタともコミュニケーションをとる場面があります。
まずグレッタですが、グレッタはエディにプラシーボの件を伝える他、ギプスにLOSERという文字を書き、ガムをくっつけます。これは母親から自立できないエディは、他の女性とは上手くいかないということを示しているかもしれません。グレッタは極端な例だとおもいますが。
ベヴとはChapter1では目立った掛け合いはありませんが、Chapter2ではペニーワイズの巣の手前で槍を渡されるシーンがあります。そこで信じる力を諭すベヴは、一時的に母親代わりとなっているように見えます。その槍は少し手前でベヴがベンを救った槍であり、Chapter1ではビルを救った槍です。愛する人に守ることができるその槍は、エディがリッチーを救うために使われます。

ということで、守ってくれる人は妻/母親しかいないと暗示を受けているわけですが、ルーザーズと再会することで、本当に守ってくれるひとはルーザーズであり、自分の身は自分で守る、また自分が守るべき相手でもあるということを思い出すのが、Chapter2のお話なんだと思います。

🎈恐怖の対象

エディの恐怖の対象としては、ホーボーというゾンビのような怪物がいます。子ども時代に3回、大人時代に1回エディの前に現れる、かなりしつこいというか、対エディのシンボルとなっている存在です。
ホーボーは、全身を病に侵されているボロボロの怪物ですが、そのビジュアルこそが、ママによって刷り込まれたエディにとっての脅威なのでしょう。

ホーボーは、口からエディの常備薬のカプセルを出します。それも、服薬を強要する母親の姿と重なります。Chapter2の回想内での、薬局の地下では、エディ本人ではなくママがホーボーに襲われる幻覚？を見せられます。拘束された母親を必死に助けようとするあたり、エディにとってママがいないと生きていけないという刷り込みも反映されていることが伺えます（結局母親よりも自分を優先し逃げますが）。大人時代には、ホーボーの首を絞めて撃退することに成功しますが、そこには母親による恐怖の支配を克服する、親殺し的なモチーフを兼ね備えられていると思います。

ホーボーを演じているのは、ハビエル・ボテットという俳優です。長身を生かして、ホラー映画で活躍しています。彼は、アンディ・ムスキエティ監督の過去の映画作品「MAMA」でMAMAという悪霊を演じています。もしかすると、母親というモチーフ、育児ホラーとしてのモチーフが重なっているかもしれません。ちなみに「MAMA」の主演は大人ベヴ役のジェシカ・チャスティンです。

🎈思いでの品

エディの思い出の品は喘息の薬、吸引器です。もろママとの繋がりです。母親による病気の脅威、そして病気から守る薬と母親という暗示を、エディは信じていました。自分が弱いこと、それを薬によって改善できることを信じていたのです。

途中で薬局の娘・グレッタによって告げられますが、全てはプラシーボなんです。病は気からとも言いますが、エディは人一倍信じる力（思い込む力）が強く、それが弱みでもあり、強みでもあります。大人時代には結果的にそれによってペニーワイズを倒す技となります。

以上のように、エディと母親は良くも悪くも信じる力によって共依存関係にあります。一度は薬の入った腰のバッグを投げ捨て繋がりを絶とうとしますが、結局拾いに戻るところを見るに、血縁関係でもある母親との関係はそう簡単に絶てるものではないことが伺えます。