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コロナ禍だからこそ本で旅を②ー世界の台所探検

 1冊目の記事からだいぶ日があいてしまいました、モンブランです。毎日、本を眺めては娘に本を奪われ、カバーも帯もぐしゃぐしゃにして引き剥がされると言う悲劇を繰り返しています…。さて、LINEニュースでチラッと「コロナワクチン予防接種で医療従事者の感染が減少?」という前向きな記事を読みました。周囲では両親を中心にワクチン接種が進んできていますが、フランスのエクサンプロヴァンス市のアカウントのインスタを見たら、日曜日にCours Mirabeau(クールミラボー)という大通りで予約なしのワクチン接種ができるバスが来るというお知らせがありました。うちでいうと〇山台ショッピングセンターにバスが来ているような感覚でしょうか。私も気軽に打ちたい…心から日本にも急速にワクチン接種が普及してほしい、と思います。ひょっとしたら海外旅行できる日は近いかも…と希望を持ちつつ、今日は岡根谷美里著『世界の台所探検』(青幻舎、2020年)を紹介したい思います。

意外な著者像-ミー(ムーミン)みたいな女の子

 著者の岡根谷さんについて何も知らずに購入した私。著者さんはきっと50代前後のちょっとごついアクティブなおばさんではなかろうかと想像していました。やはり食べ物を求めて世界を廻るくらいなので結構がっちりした感じで、どこか優秀な大学の文系学部を出ていて、ちゃんとした文章を書かれる方なのでは…と。しかし!実際、中を見てびっくり!岡根谷さんは台所探検家を自称するまだ30歳くらいの小柄で華奢な可愛いらしい女性。しかも東京大学工学部卒からの東京大学大学院工学系研究科修士を修了しているバリバリのリケジョさんでした。現在はクックパッドで働きながら旅を続けているそうです。これまでの文系女子による食いしん坊旅行記にはないこの感じ!いったい、どんな内容なのだろう?ワクワクがとまりません!!!それでは行ってみましょう〜

将来の夢と現実の間で

 冒頭の「はじめに」で語られるのは岡根谷さんのこれまでの人生と、「台所」に関心を持つようになったきっかけについて語られます。ここがこの本の肝であると思います。もともとは土木工学を学び、国際協力の道を志してインフラを作る技術者として世界を飛びまわることが夢だった岡根谷さん。当初から海外に目は向いていたようですが、家庭の「台所」とはあまりにも異なる分野に思えますね。しかし、学生の時に経験したケニアのインターンシップ先で村の中央に道路をつく計画が浮上すると、それまで仲良く暮らしていた現地の人々が立退を強いられ困り果てているのを目にしたそうです。物流がよくなり経済発展を支えるはずの道路計画は必ずしも地元の人々の暮らしを本当の意味で豊かにするわけではないのだと岡根谷さんは考えます。この出来事がきっかけになり、みんなを笑顔にする食事の時間は世界共通であり、台所には生きる全てが詰まっている!と気がついた岡根谷さんはクックパッドに就職を決め、世界の台所を探検することになったのです。日本にいる間、頭の中でイメージできる範囲の「国際協力」と現実はあまりにもかけ離れていたということでしょう。現地での経験なくしては現在の岡根谷さんはあり得なかったのだと思います。

台所という小さな世界

 この本に出てくる台所はインド、ブルガリア、キューバ、スーダン、パレスチナなど世界各国16ヵ国におよびます。身長148センチの岡根谷さんは子供用のバックパックで現地を訪れ、家族の一員のようになって料理を教わりながら食卓を共にします。その光景を写真や文章でたどっているとまるで自分がホームスティをしているかのよう!もちろんいくつかレシピも載っているので実際におうちで異国の台所の味を試してみることもできますが、こういうのは他のどの旅行本にも見られますよね。でも、ここからが他の旅行本とは違うのです。こちらの特徴は現地の経済的事情や社会を少し垣間見せてもらえるようなエピソードがたくさん見られるところなのです。例えば、社会主義国家のキューバでは配給手帳というものがあることを本書で初めて知りました。なんと食料の配給システムがあるのです。豆と米は全ての国民に必ず配給されるけれど、それ以外のものは配給では全然足りないため、実際、国民の多くは市場にも足を運んでいるようですが。また、ある農家では自分の畑で収穫したものは自家用には基本的にはせず、政府に納めて分配させているとのこと。その家主は、キューバでは義務教育と医療が無料なのだから社会の一員として働いた成果を国家に収めるのは当然のことだと言います。国の政治イデオロギーが異なるとここまで考え方は変わるのでしょうか。資本主義国に育った私にはちょっと信じられませんでした。こういう発見がこの本のエピソードにはたくさんあります。

本当の豊かさについて考えるきっかけに

 私にとってはキューバのエピソードが最もインパクトがありましたが、ウィーンのおばあちゃんの家でザッハトルテを作ったり、その他、ほっこりする台所探検もたくさん載っています。岡根谷さんの人生の分岐点となったインターン先のケニアでの出来事のように、国家が目に見える範囲で経済的に豊かになることと、住人の心が満たされることは必ずしも一致しないことというのは多々あると思います。ただモノがたくさんあり、交通がスムーズで時間に無駄のない便利な暮らしが本当に「豊か」なのでしょうか。それとも、足りないモノがあって時間がかかって少し不便でもみんなが笑顔で暮らすことのできる暮らしが「豊か」なのでしょうか。本書を読んでいるとそのようなことを考えさせられました。切り口が「台所」で誰もが毎日使う日常的な一コマなのですが、そこからそれぞれの国の経済事情や文化にまでエピソードを発展させて展開している点に岡根谷さんのインテリジェンスを感じます。ただ単に、台所に入って料理体験したのではない、その国のこと、その国に住む人々のことまで考えてみた人の面白い体験記でした。コロナ禍で探検はおやすみ中かと思いますが、続編が待たれます…


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