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映画「すずめの戸締まり」二度見したほうが泣けるワケー感情を受け入れるとは過去を受け入れること

感情移入できる映画なんて面白くない

「すずめの戸締まり」を見てきた。しかも2回。

2回も見たなんていうと、「同じ映画見ても感動が薄まるだけだろ。どれだけ新海誠が好きやねん」と突っ込まれそうだ。

いやいや、そうじゃないんですよ。むしろ2回目の方が深く味わえるんですよ。と僕はいいたい。

この映画のレビューをみると「感情移入しにくい映画だった」という感想がちらほら見えた。人の感情を描いた作品であれば、これは褒め言葉なんじゃないかと思うのだ。

人の気持ちなんて簡単に理解できるはずがないのだから、感情移入できるとしたらよほど単純な主人公だ。
たとえば、ドラゴンボールの孫悟空は、暇さえあれば腕立て伏せをしている。
彼はとにかく強くなりたい。強くなるために時間をおしまず鍛えていると誰もが理解できる。

彼の心のうちを読むのが簡単なのは、彼の価値観がわかりやすいからだ。
「おめーつえーな。おら、わくわくするぞ」
この一言に彼の価値観はすべて押し込められている。

だけど、現実世界にはそんな人はいない。
腕立て伏せをするにしても、低い自己肯定感を高めたいのかもしれないし、悲しみを紛らわせるために時間を消費したいのかもしれない。

感情移入しやすいキャラクターは少年漫画の中にしかいないと思うのだ。
作品の世界がリアルに近いほど、感情はもっと複雑になる。

感情移入できない映画ほど、複雑な感情を描いている可能性がある。
だから、僕は映画「すずめの戸締り」を2回見た。


この先、映画のネタバレがありますので、あしからず。

「私は、すずめの明日」がクライマックス?

一回目鑑賞したあとで一番感動したセリフを聞かれれば、最後のシーンの「私は、すずめの明日」というセリフだと答えただろう。

たしかこんなシーンだった。

主人公のすずめの心の中に棲みついている幼い頃のすずめが、亡くなった母親をいまも探し続けて彷徨っている。そして、ようやく見つけた母親らしき女性に「あなたは誰?」とたずねる。そこで見つけたのは母親ではなくて、現在の自分。

成長した現在の自分が幼いすずめに答える。

「私は、すずめの明日」

見つめるべきは、亡くなった母親ではなく、未来の自分だと、自分自身に言い聞かせている。
これは、高校生のすずめにとっての決意表明だ。

このシーンで僕は泣いた。
すずめが抱えていた問題が理解できた。
映画の終了3分前で、ようやく感情移入できたのだ。


過去が世界の見え方を決めている

彼女の感情が理解できた上で、もう一度映画を見ると、彼女の視点に立って物語に入り込むことができた。

この作品は彼女にとっての世界の見え方が変わっていく様子を描いていたのだ。それに気づくために僕は2回見る必要があった。
死んでもかまわなかった世界が、生きるに値する世界に変わっていく。

はじめのほうのシーンで、化け物のミミズに立ち向かうイケメン草太を、すずめが助けようとする場面がある。

「死ぬのが怖くないのか」と聞かれたすずめは「怖くない」と返す。

1回目の鑑賞では、ほとんど気にならなかったセリフだった。イケメンに目が眩んで怖さを感じていないくらいにしか思っていなかった。

ところが、2回目の鑑賞では泣いてしまった。彼女のセリフの重みに気づいたのだ。彼女にとって、母親のいない世界は生きるに値しない世界だった。だから、死ぬことは怖くなかったのだ。彼女の心の中の暗闇が見えてきた。

その後、すずめは旅をしながら、空っぽになっていた心を満たしていく。自分を助けてくれる人々に出会い、親を亡くした自分を守ってくれていた伯母さんの思いに気づき、草太への恋愛感情を育んでいく。それとともに、彼女が生きている世界の見え方が変わっていった。

だから、最後に化け物のみみずと対峙するシーンでは、「死ぬのが怖い」というセリフが口から出た。死んでもかまわない世界が、生きるに値する世界、かけがえのない世界に変わったのだ。

2回目のほうが、感動が深かった理由はここにある。


感情を受け入れることは、相手の過去を受け入れること

同じ出来事を経験しても、一人ひとり感じ方が違うのは、彼もしくは彼女の抱えている問題が違うからだ。どんな問題を抱えているのかを理解しない限り、相手の立場に立って考えることは難しい。「死ぬのは怖くない」というセリフのように聞き流しそうになるメッセージのなかに深い感情が込められていたりする。

この映画の感想を頭の中で整理しながら、僕は小学校の頃の話を思い出した。

「銀紙が私の宝物です」という作文を発表した女の子の話だ。この話をツイッターでつぶやいたところ、思いのほか反響をいただいた。noteにもまとめた。

この映画をみたから、40年近い昔のできごとがようやく言語化できた。

人の心のうちなんて分からない。たとえ恋人でも家族でも。歩んできた歴史や体験が違えば、抱えている問題も違う。
理解できない感情を抱く人に出くわすと戸惑ってしまう。ケンカになったり傷つけたりすることがある。
だけど、彼または彼女が違う体験をしてきたことが想像できれば、受け入れられることも増えるのだと思う。

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読んでいただいてありがとうございます。
田内学が、毎週金曜日に一週間を振り返りつつ、noteを書いてます。新規投稿はツイッターでお知らせします。フォローはこちらから。


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