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短大生の私がユニクロから現実を教えてもらった話



突然だが私は足が短い。


「もしかして私って足が短いのでは?」
と嫌な気がし始めたのは中学生になってからだ。
当時流行っていたブーツカットのジーンズを買いにユニクロに行った際、丈のお直しをお願いしたらストレートジーンズになって返って来た。
魅力的だったブーツカットの部分は全て切り取られ、ギャルの履く短パンが作れるくらいの、デカく悲しいハギレとなってポケットに詰め込まれていた。
それ以降私の疑惑は次々と的中し、今の結論に至る。

ミニチュアダックスフンドやコーギー、マンチカンなど、犬猫は足が短くても「そこが可愛いんじゃないか」とチヤホヤされるのに、人間になるとなぜ長い方が良しとされるのだろうか。
私はかわいいかわいいと寵愛を受ける犬猫にさえ敵意を剥き出し、激しく嫉妬した。



短大生になった私は実習の時に着る服を探しにユニクロにやってきた。ユニクロとは勝手ながら、例の件以来妙にギクシャクした関係だ。
保育実習で着用するズボンはシンプルで動きやすいものが好ましいとされていた為、私はそれらしき物を探し店内を歩いた。



胴長短足のズボン探しは難易度が高い。
砂漠の中に落ちたビーズを見つける方が楽ではないかとさえ思う。それほどまでにこの世は足の短き者に優しくないのだ。

ズボン選びのコツとしては股上の深いものであること、そして裾直しが大前提の為に切ってもシルエットが崩れないデザインを選ぶ事が大きなポイントになる。ジャストサイズなどないと鼻から諦めていたが、その時私は驚くべきことに自分の下半身にピッタリなチノパンに出会った。
股上の深さもしっかりあり、肝心の丈に至ってはユニクロが私のために仕立てたかのようなジャストサイズだった。喜んだ私は滅多にお目にかかれない好条件のそれを、色違いで2着購入した。


実習用に買ったが色やデザインを含めて普段使いとしてもかなり有能だったので、さっそく短大に履いて行った。久々のパンツスタイルは気分がよい。私服は専らスカートやワンピースだったので新鮮な気分だった。

さてロッカーで教科書を取って授業に行こうかねと歩いている所に隣のクラスの友人、ムラサキとばったり出会った。


「おはよう〜!」


いつものように元気に挨拶を交わす。
ふと彼女の私服を見ると、黒のゆったりとしたサルエルパンツを履いていた。ムラサキはセンスが良く、私服やアクセサリーなど全て世界観がまとまっていてため息が出るほどお洒落だった。
足の長きものはわざわざ好き好んで股下が短く見えるパンツを履くのだ。1mmでも長く見られたい私には考えられない事だが非常に羨ましい。


「ムラサキちゃんのサルエルパンツ、かわいい!似合ってるね!」


私は彼女も、彼女のファッションセンスも大好きだったのですぐに今日の装いを褒めた。
ムラサキはとても喜び、そして言った。


「ありがとう。エムコのサルエルパンツも似合ってるよ!」


先述した通りだが、私はジャストサイズのチノパンを履いている。
自分の笑顔が凍りつくのがわかった。

サルエルパンツを履いてると見まごう私の股下の短さが憎い。
ムラサキは冗談を言うような子ではない、本心からそう言葉を掛けてくれたのだ。優しい子である。


「ありがとう…でも、これ、チノパンなんだ…
 エヘヘ…」


ムラサキとは長い付き合いになりそうだと確信していた私は、嘘をついても仕方ないと思い正直に話した。
彼女は大きな目が飛び出んばかりに驚き陳謝した。その勢いは、彼女が悪意などまるでなかった事を物語っていた。
ムラサキに罪などあるものか。悪いのは全部私の足の短さなのだ。ムラサキよ、ごめん。



数日後、野暮用があったので再びユニクロに足を運んだ。ふとチノパン売り場のポスターを見た私は衝撃を受ける。

『 メイサの、夏チノ。 』

インパクト大なそのコピーと一緒に、私と同じチノパンを完璧に履きこなす黒木メイサがそこにいた。

私がぴったりだと喜んだチノパンが彼女の膝下丈だった現実が、今も呪いのように脳に焼きついて離れない。

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