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松田聖子「ユートピア」、夏の思い出

松田聖子の曲をしっかり聴いたのは、8歳の夏だった。
毎年、夏休みは学校の宿題を2日で終わらせ、私と弟は母に連れられて、母の実家へ1か月近く帰省する。きらきらきれいな自然がいっぱいだけど、クラスの友だちとも遊べない夏休み。自分の部屋じゃないから、いつも遊んでいるおもちゃも本もマンガもない。母は伯母さんたちと何時間もおしゃべりしている。私はとっても退屈だったので、書斎やいとこの部屋の本や漫画や音楽を手当たりしだい読んだり聴いたり、おじいちゃんの家をあちこち探索して過ごしていた。
そんな毎日だから、年の離れたいとこたちが夏休みに下宿先から帰ってくるのは、とっても楽しみだった。
ある夏の日、車にのって大学生のいとこが帰ってきた。
いとこの短い夏休みのあいだ、ときどき私と弟を遊びにつれていってくれる。
いつもはジャズやロックをきいているいとこが、その夏休みは聖子ちゃんの「ユートピア」をカーステレオでかけてくれていた。
楽しい夏のドライブと、夏らしい曲がいっぱいつまったアルバムの曲や歌詞が大好きになった。

お盆が終わりかけて、映画「サマーウォーズ」ばりに田舎の家に集まったたくさんの親戚を送り出して、なお、まだ私たちは田舎の家に残るのだ!
しかしながら、なんにでも終わりがあるもので、夏が終わりかける頃、いよいよ母の帰省は終わる。

避暑地のような気候から一転、あつい暑い暑い町の自分の家に帰ったら、お盆玉を携えダッシュでレコードショップに向かった。
お店のおじさんが母と私に説明してくれた音質がいい、耐久性がある、という理由でメタルテープの「ユートピア」を購入。通常のテープより少し高くて、特典ポスターをもらった。
あのメタルテープ版は、いま、オークションで2万円なのか。
https://aucfree.com/items/e367345704
「ユートピア」のジャケットも、薄くて手になじむグレーの歌詞カードや文字も大好きだった。
https://www.sonymusic.co.jp/artist/SeikoMatsuda/discography/CSCL-1271?bcRefId=83130188_CSCL-1271_03SFL

8歳の私は、歌詞に出てくる「セイシェルの夕陽」とは、「マイアミの午前五時」の空気とは、「退屈なクラシックコンサート」とは、「1ミリ切り過ぎた前髪」とは、どういうことなのか、考え、悩み、想像しまくった。宇宙好きだった子供の私は「メディテーション」という曲も好きだった。
「ユートピア」のテープは何千回も聴いたので、幼いながらも、松本隆さんの詩的感覚を叩きこまれ、それからの私の恋愛観も「聖子ちゃんが歌うユートピア及び松本隆さんの世界観」に基づいたものとなった。
聴き込みすぎて聖子ちゃんの歌がすっかり上手くなり、およそ20年後、上司に連れられていったクラブ(おじさん用)で振りつけもしっかりやって歌ったところ、他のお客さんも含めて大盛りあがりして、クラブのママに働きにきてほしいと真面目に何度も勧誘いただく始末になった。
そのとき歌ったのは「青い珊瑚礁」(アルバム「SQUALL」に収録)だけど。
山に囲まれた盆地民である私の「夏の海☆コンプレックス」を高めたのもこのアルバムだろう。制作に関わっているのは、松本隆、細野晴臣、松任谷由実、財津和夫、大村雅朗、甲斐祥弘、他、とのことで、ほかの歌謡曲もたくさん聴いたはずなのに、とりわけ初期の松田聖子だけが好きな理由がわかった。

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