Mリーグ2020レビュー③ TEAM雷電/RAIDEN編

Mリーグ2020シーズンにおけるチームレビュー。当方で集計したデータを中心に総合的に判断し、各選手5段階評価による査定を行います。
シリーズ第3弾は年間総合6位・TEAM雷電/RAIDENの特集です。

【チーム総評】局面での一撃必殺は見られたが、長期戦の安定感は見えず2年連続で鬼門セミファイナルを突破できず無念の敗退。新生・雷電で手繰り寄せるは悲願の初ファイナル、あの舞台へユニバースを連れていく。

【チーム評価】攻撃:C 守備:C 加点効率:D 運:B 総合査定:D

唯一のファイナル経験なし、雷電を語るにはこの部分は避けては通れない。2018シーズンは最終日は実質の目無し、2019シーズンは5位通過で初のレギュラー突破となるも最終日に条件残せず、そして今季も条件を残せず無念の臍を噛みながらセミファイナルで姿を消した。
今一度問いたいのは、果たして雷電の面白い麻雀とは何なのか?劇的な和了、逆転勝利は確かに多いが、長期戦のリーグを戦うにあたり、あまりにもチームカラーを意識させすぎていないか、この部分がどうしても引っかかる。

【2020レギュラーシーズン 個人/チーム別打ち筋データ】

★個人打ち筋確定値

★レギュラーチーム打ち筋確定値

Mリーグをご覧になられている方にとっては、最早語るまでもないのはその独特のプレイングスタイル。副露という概念を捨て去った「超・門前麻雀」が雷電の面白い麻雀の原点となる。一撃高打点の門前手役派、華のある麻雀を追い求めるスタイルは根強いコアなファンが多い。
昨季のチーム副露率は11.65%に対し、今季のチーム副露率は10.93%昨季比▲0.72ポイント、遂に10%台に突入した。約9局に1局(≒11.11%)に近似するこの数値にピンとこない方もいらっしゃるかもしれないが、今季のレギュラーシーズンでは全180試合・2,174局を戦ったが、1試合あたりの局数は12.08局、つまり、副露率10.93%は1試合に1.5局しか副露しない計算となる。1試合で3局副露すると2試合分鳴いているというデータである。ちなみに雷電はレギュラー90試合中試合内で2局以上副露した試合は32試合と、異常に少ない。もっと具体的に言うと小林剛選手の今季副露率が32.87%なので、「小林剛選手の鳴きを3回に1回程度にする、あるいは、雷電全選手が今より3倍副露すると小林剛選手になる」と表現すると分かりやすいか。

さて、雷電のベーシックストラテジーが「門前麻雀」というのはご理解いただいたうえで、スタティクスな部分を掘り下げる。
まず、チーム和了率が18.06%で8チーム中7位平均打点は6,966点で8チーム中3位となっており、和了率を多少犠牲にして高打点を狙う傾向が明らかである。ここで雷電の武器は満貫作りの上手さである。前回・Piratesの考察でも述べたが、和了における満貫の内訳が最も高いのが雷電である。

【Mリーグ2020レギュラーシーズン個人別打点分布表】

レギュラー打点分布

和了の半数近く、49.23%が満貫以上の打点を占めており、僅差ながらこの項目で他チームを抑えて1位となっている。特に瀬戸熊選手は全体の4位となる55.71%で満貫を作った暴君の通り名にふさわしいデータを残した。

一撃打点を狙いに行くうちに前がかりになるのは必然であり、チーム放銃率は11.20%で僅差のリーグ5位。放銃について状況別に掘り下げてみたい。下表はMリーグ2020シーズンにおける個人・チーム別の放銃状況の統計である。

【Mリーグ2020レギュラーシーズン状況別放銃統計】

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この表には「親番時における放銃(=放銃した選手が親番だった回数)」と「リーチ時における放銃」のデータが掲載されている。
親番時の放銃であるが、全体統計として個人別の放銃率より親番時放銃率の方が高い傾向にある。親番時の得点が1.5倍になるという攻撃有利の状況で押し気味になるのは多数派となり、ほとんどの選手で平時より放銃率が高くなる。
親番の押しの傾向を見ても雷電は独特である。黒沢選手は個人10.73%の放銃率であるが、親番に限ると約2倍となる19.10%へと放銃率が高くなる。強気のヴィーナスの押しっぷりが凄まじいデータを垣間見ることができるが、敗着になりかねない一打を打ってしまうリスクも伴う。

立直も親番も雷電の麻雀を輝かせる種となるが、今年は三者三様で課題を残した。萩原選手は親番の平均収支が▲1,332点/局でリーグワースト2位となる29位。親番を恐れられていない、または前がかり過ぎて失点を重ねた形である。瀬戸熊選手は立直の意識は高いものの、リーチ成功率が選手平均を大きく下回る40.22%でこれも寂しい。黒沢選手は、親番の意識が前がかり過ぎて親番での放銃が高すぎた印象だ。
チームカラーの門前麻雀を貫く戦法は見えたが、間隙を突かれた形でまたしてもセミファイナルの鬼門を突破することは出来ず、チームスタイルの進化と、あるいは大胆な「刷新」を求められる時期が来たのかもしれない。
麻雀は競技である。8チームで優勝を争うスキルスポーツだからこそ、3年連続ファイナル進出ならずは危機的状況と言っても過言ではない。来季は北陸・富山からのニューカマー、本田朋広選手の加入内定が決まっている。雷電躍進の原動力となれるか、最後のピースを手に入れた雷電の「面白い麻雀」は、どんな戦いになるのか。あの舞台へユニバースを連れて行けるか、2021シーズンの戦いは面白いことになりそうである。

【選手別査定】

萩原聖人選手:見失った押し引き。行くべきところで引き、引くべきところの蛮勇で自滅。親番のアドバンテージを活かせず、迷路に嵌まった1年間は屈辱の個人最下位。

【査定】攻撃D 守備D 加点効率E 運A 総合査定E
◆個人成績
 レギュラー   27試合出場3勝 ▲460.8pts(30位/30名)
 セミファイナル   3試合出場0勝 ▲115.7pts(21位/22位)
 ファイナル   -

24萩原

20萩原

昨季はマイナスを重ね、後が無い状況で迎えた今季、しかし、萩原選手を待ち受けていたのは艱難辛苦、目を背けたくなるような惨敗の山であった。もどかしい自分の敗北に心が折れてしまったと、あの情熱的な瞳も色を失ってしまったと見えてしまうほど、失意と悔しさに満ちた声は今でも見返すと胸にくるものがある。


※私の記事においては、スタティクスな部分を取り上げる際に「絶対に悪口を書かない」ことを心がけている。数字は数字として客観的な指標であり、事実である。しかし、事実を悪意をもって切り取り、その先の感想として人の尊厳を踏みにじる様なコメントや情報発信は厳に慎んでいただきたい。


閑話休題。
例に漏れず、主要指標のデータを分析する。
和了率 2019:19.02%(14位)→2020:16.72%(25位)(▲2.30ポイント)
放銃率 2019:14.12%(28位)→2020:12.54%(25位)(▲1.58ポイント)
平均打点 2019:6,165点(23位)→2020:6,875点(12位)(+610点)


和了率と放銃率がそれぞれ減少しているのでツモられ・横移動と流局が相対的に増えたこととなる。今季は昨季より高打点を作ることに注力しすぎたため、和了率(分母※厳密には和了回数)が減少したことにより平均打点は上昇したが、打点上昇の分の和了率・放銃率のデータは成績を上向かせることができなかった。
和了率と放銃率がともに減少するということは他家決着が相対的に増える。事実、連荘率は21.74%選手平均の33.10%を大幅に下回り、親番においても聴牌を取り切ることを諦め他家での決着に委ねたことにより、親番での失点が想像以上に重なってしまった。これについては、聴牌料収支が▲5,000点、親番平均収支が▲1,332点と、親番をやればやるほど他家に400点ずつ支払うという無理ゲーを強いられている。
原因はデータ上だけでは全て表せない。他家決着を委ねるということは、相対的に先制をしている回数が少ないことともいえる。つまり、手組の段階で後れを取っている回数が多いこととなる。早々に打点を決めて5ブロックを決め打ちスリムな手組を意識していたものの、いざ先制されると降りに回る回数が増え、結果的には押していれば和了をもぎ取っていた所謂「和了逃し」が多かった印象である。あるいは逆に、シャンテン数で遅れていて最終形もあまりよくない形でも目先の打点に引っ張られて押し過ぎていた打牌も何度か見受けられた。上記は筆者の主観であるが、データ上は「引きすぎ」と出ている中で12回もラスを重ねていることは、押しすぎかつ引きすぎという、タブーをしてしまったものと推察できる。

美麗な打ち方を見せるのはファンを意識してのことだろうが、技術の部分では、やはり一歩遅れを取っていると言わざるを得ない。地獄を見てきた今シーズンはリーグワーストタイ記録となる14試合連続ノートップという不名誉な記録も残してしまった。
心が折れた自分を奮い立たせて、もう一度リングに上がる権利を勝ち取った。戦う姿を見てもなお、嘲笑うならず者の声を跳ね除け、己自身の麻雀との向き合い方、俳優業との二足の草鞋という決して楽ではない道を選んだ自分との戦いが2021シーズンの道となる。4年目のシーズン、ドラフト1位指名の旗手としてとびきりの情熱的なRMOを見れることに期待したい。

瀬戸熊直樹選手:苦戦のMリーグルールにもアジャスト。攻撃力は伸びなかったが着取りの上手さでプラスを確保。最終戦の大勝負は前のめりで"名誉の負傷"となるMリーグワースト記録。

【査定】攻撃C 守備C 加点効率A 運C 総合査定C
◆個人成績
 レギュラー   32試合出場9勝 +57.0pts(11位/30名)
 セミファイナル   6試合出場1勝 ▲94.2pts(20位/22位)
 ファイナル   -

25瀬戸熊

21瀬戸熊

苛烈な攻撃力を持つ瀬戸熊選手に対して持つイメージは、やはり「瀬戸熊ブランド」としての火力の高さだろう。しかし、ことMリーグにおいては思ったような成績を残せてこれなかった。初年度に▲283.4ptsを叩くなど、Mリーグ通算成績(ポストシーズン含む)では▲391.0ptsの30名中27位と苦戦を強いられている。
しかし、レギュラーシーズンに限ると直近2年間はプラスを持ち帰り、3年目となる2020シーズンでは昨季の+20.9ptsを上回る+57.0ptsの自己ベストを達成し、着実にMリーグルールにアジャストが出来ている。

和了率 2019:20.28%(6位)→2020:18.09%(19位)(▲2.19ポイント)
放銃率 2019:10.14%(11位)→2020:10.59%(12位)(+0.45ポイント)
平均打点 2019:7,385
点(5位)→2020:7,160点(8位)(▲225点)

主要成績指標では3指標とも昨季より悪いデータとなった。自慢の攻撃力も今季は鳴りを潜めることとなり、和了率についてはボトムハーフの19位に落ち込んだ。冒頭に述べた繰り返しとなるが、リーチ成功率が落ち込んだのも攻撃力低下の原因となった。今季はしかし、スコア上はポイントが伸びているということは、打ち筋ではなく素点の問題、よって着取りが上手かったと仮説が立つ。
手元のデータを集計したところ、連対を取った16試合中7試合において素点が35,000点(配給原点から+10,000点)以内の連対を獲得しており、少ない素点ながら順位点を拾うことに成功している。特に第26節第2試合においては素点26,200点でトップ獲得というMリーグにおけるトップのミニマムレコードを記録するほどである。
レコードとして触れるのであるのならば、セミファイナル最終戦を外すことは出来ない。絶望的な点差を突き付けられる中、最後の最後、万に一つの可能性に賭けポイント差を記したメモを持ち込み、世界一諦めの悪い男としての意地と矜持を見せた。結果は、Mリーグワースト記録となる▲35,600点。ポイントにして▲95.6ptsの記録を作ったことは記憶に新しい。厳しい条件戦で前がかりになった結果のノー和了2放銃は、和了こそなかったものの雷電の面白い麻雀の醍醐味を感じることのできた名誉の負傷だった。

【セミファイナルシリーズDay11 第2試合試合経過】

画像9

着実にMリーグルールにアジャストをしてきた2年間を振り返り、来季こそはと意気込むその麻雀は気力に満ち溢れることは間違いない。己に打ち勝つ麻雀『克己心』を心に刻み、台頭する若手の新戦力・本田朋広選手とのいいお手本と、トレンドの戦術を身に着ける吸収力で戦い抜いてもらいたい。そして、こてんぱんにやられ続けてきた黒沢選手との雷電ダービーも初の白星を付けることができるかも見どころである。

黒沢咲選手:母は強し!誰も見たことのない副露率「7.07%」の超超門前麻雀で黒沢信用金庫設立。鳴くと誰も立ち向かえないブランド力とここ一発の勝負強さでセミファイナルを引き寄せる。

【査定】攻撃C 守備C 加点効率E 運B 総合査定C
◆個人成績
 レギュラー   31試合出場10勝 +193.3pts(7位/30名)
 セミファイナル   7試合出場  3勝 ▲31.0pts(14位/22位)
 ファイナル   -

26黒沢

22黒沢

一人ナシナシルールと言うべきか。鳴かない。兎に角安易な鳴きの牌に飛びつかない超門前麻雀はMリーグという舞台の中では異彩を放ちまくる。
余りにも鳴かなすぎるので何度速報ツイートでこの画像を使ったことか。

【緊急副露速報(黒沢選手)】

黒沢副露

副露率7.07%≒14局に1回鳴く計算である。つまり、1試合平均は約12局なので、試合おいて1局でも鳴くと「あぁ、黒沢選手は今日は割と鳴いた方なんだな」という感想を持ってしまうことになる。そのうち1試合に3局でも鳴くとYahoo‼ニュースのトップに載ってしまうこととなりかねない、そんな副露率である。この前例を見ない門前麻雀をデータで分析する。

和了率 2019:19.42%(12位)→2020:19.11%(14位)(▲0.31ポイント)
放銃率 2019:10.43%(12位)→2020:10.73%(15位)(+0.30ポイント)
平均打点 2019:8,234
点(2位)→2020:6,844点(13位)(▲1,390点)

大幅に下げたのは平均打点の項目。これについては、昨季が8,234点と満貫超えの平均打点であったため揺り戻しとしては当然の数値となる。6,844点でも平均を十分上回っており、お気に召さない聴牌絶対取らないウーマンの真骨頂である。
和了率・放銃率は昨季からほぼ横ばい。若干数値の悪化は見られたものの、全選手の中央のポジションでここでの特異なデータは見られなかった。
しかし、状況別での放銃率は特筆すべきである。冒頭に記載したとおり、全体を通しての放銃率が10.73%に対して、親番に限ると19.10%と約2倍になるデータを残すということは、相当数に親番のプッシュ・前がかりが伺える数値となる。リーチ時放銃率が8%台と全選手の中でも低い数値となっていることから、特段リーチの中で摑んで放銃しているわけではない。よって、選択肢が限られている状況下ではない中で放銃率が以上に上昇していることは、親番中において押しの判断をしたうえでの放銃であることが分析できる。
このデータは強みにも弱みにもなる。必然的に親番のプッシュが強まる=ガードが甘くなることに直結する。回数が少ないので参考となるが、親副露和了時の平均打点が12,000点と、親番での副露に対しては他家が向かってこれないイメージを植え付けられれば最大限に戦術とマッチする。しかし、遠いところから無理やり和了をもぎ取ろうとするとガードが甘くなる間隙を突かれ、ゲームプランが崩れる危険性も伴う。親番の扱い方一つで強みにもアキレス腱にもなるこのデータ傾向を、どの様に向き合うのか?

母となって初めてのMリーグは成績としては見事な成績を残した。それ以上に自分自身の麻雀スタイルと対戦相手へのブランドを確立し、見事に3年連続プラスポイントを獲得。しかも3年連続+100ptsオーバーとなり、成績としては非の打ち所がない安定感を見せつけた。
攻撃力とブランド力は大きな武器となってこの3年間を戦い抜いてきた。しかし、レギュラーシーズンの3年連続プラスとなり他選手のマークも必然としてきつくなってくる。ブレない超門前麻雀を貫き通して4年連続のプラスポイント、そして初のファイナルへセレブ麻雀の大躍進と進化がどの様に見られるか、過去一最も面白い麻雀が見られる2021シーズンはすぐそこに迫っている。

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次回は年間総合5位 KONAMI麻雀格闘倶楽部のシーズンレビューをお届けいたします。