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ギャラリー間 |TOTOのデザインギャラリー

再び、田中一光さんの話になる。こう考えてみると田中一光さんがどれほど、僕の創作活動に付き添ってくれていたかと今更ながら驚く。僕はどうもグラフィックデザイナーの皆さん、インテリアデザイナーの皆さんとの付き合いが多かった。両方とも感性型の業界でありそのことが僕の性に合っていたのだろう。ファッション関係も多かったしテキスタイルデザインの人たちも知古が多い。

既に触れたのだがTOTOデザインコミッティーという会があった。TOTOの経営者たちにアドバイスをする会なのだが、ある日、TOTOの所有する小振のビルのテナントがいなくなって空いたという。僕たちはすぐギャラリーにしようと提案した。やっと本格的なデザインギャラリーができることになったのである。
僕の提案で名称は「間」になった。田中一光さんのお得意のロゴが決まった。インテリアデザインと二階の屋上庭園もスーパーポテトの杉本貴志が担当した。運営委員会というものが決まってそこで展覧会の内容を決めることになった。当然、僕もその一員である。

僕の発想はこうである。運営委員会でテーマを決めて色々な人に参加してもらう「テーマ型」をやめようと考えた。人間の知恵はたかが知れている。小賢しくなる。それより建築家やデザイナーの個展形式がいい、僕はそう主張した。一人の人間は深い世界を持っている。間違いも含むのだが閃きもあり、苦しんでもいるのだが歓喜に満ちてもいる。地獄もあれば極楽も、人の中には深い世界が広がっている。これをそのまま出してもらおう、そう考えたのだ。それは間違っていなかったと思う。一年間に何回かは海外の建築家やデザイナーになるのだが、TOTOは建築部品の企業だから基本は建築家たちだ。

TOTOはこのギャラリーの開設に合わせて出版も始めている。TOTO出版である。そうなると選ばれた建築家は展覧会と同時にそのカタログとして作品集が出版できる。
銀座松屋のデザインギャラリーはプロダクトとグラフィックが中心なのだが、やっと建築のギャラリーが生まれたのだ。
僕は最初に「石井和紘」を選んだ。少し下の世代で親友だったのだが早くに没している。

今は何回展になるのだろう、妹島和世+西沢立衛/SANAA展 「環境と建築」を開催中である。

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ギャラリー間公式HPより転載

デザインや建築の展覧会は今では当たり前なのだが、当時はどこにもそのような展覧会場はなかったのである。デザインや建築が生活に役立つものであるだけに日常的であり、芸術として捉える人は少なかったのである。「使うための製品や建築」が雑誌や本が出版され「思想や作品」としてその意味だけが「展示される」ようになる。
それはデザインや建築が産業や経済価値から自由になることを意味してもいた。絵画や彫刻のように「文化や芸術」の領域として評価され、「美の問題」としての立場を持つことになったのだと僕は考えている。デザインや建築が重い大地から切り離され、生活という現実や産業という経済的価値の地平から飛び立って「美」として評価されるのである。
この時代は日本のデザイン界、建築界にとっても大きな曲がり角だったのだと思う。

TOTOギャラリー間公式ホームページ

黒川雅之「蛇口・腕時計・文具・屋外燈のデザイン」展(1987年)

E_ギャラ間 黒川雅之展-9 [30]平井広行

E_ギャラ間 黒川雅之展-2 [30]平井広行

E_ギャラ間 黒川雅之展-6 [30]平井広行

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「未来への遺言」
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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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